手洗い、着替え、食事…毎日のルーティンで育む子どもの時間感覚
毎日のルーティンが子どもの時間感覚を育む基盤となる理由
子どもたちが一日の生活の中で繰り返す「ルーティン」は、単なる習慣ではなく、時間感覚を自然に育むための重要な機会です。手洗い、着替え、食事、排泄など、毎日決まった時間帯に行われる一連の動作は、子どもに時間の流れや構造を体感させる学びの場となります。
保育現場において、これらのルーティン活動を意識的に捉え、子どもへの関わり方を工夫することで、時間感覚の基礎をより確かに育むことが期待できます。
ルーティンが時間感覚の発達にどうつながるか
ルーティンは、以下の点で子どもの時間感覚の発達に寄与します。
- 順序の理解: 「まずこれをしたら、次はこれ」という一連の動作の繰り返しは、出来事の順序を学びます。これは「過去→現在→未来」という時間軸の理解の基礎となります。
- 所要時間の体感: 一つの動作にかかる時間(例:「手洗いは歌一曲分」「着替えは〇分くらい」)を繰り返すことで、時間のおおよその長さを感覚的に掴み始めます。
- 見通しを持つ力: ルーティンの次の動作や、ルーティンが終わった後に何が待っているか(例:手洗いの後はおやつ、着替えの後はお散歩)を予測する経験を重ね、未来への見通しを持つ力が養われます。
- 安定した時間の枠組み: 決まった時間帯に決まった活動が行われるという経験は、子どもにとって安心感をもたらし、時間に対する肯定的な感覚を育みます。
年齢別の具体的な関わり方とヒント
子どもの発達段階に応じて、ルーティンを通した時間感覚へのアプローチは異なります。
乳児期(0-1歳児)
この時期はまだ「時間」という概念そのものを理解することは難しいですが、「繰り返される心地よいリズム」を通して、安定した生活の流れを体感することが重要です。
- 声かけ: 特定の動作と結びつく言葉を繰り返し使用します。「きれいきれい(手洗い)しようね」「ごくごく(水分補給)の時間だよ」「ねんねの時間だよ」。時間の長さよりも、動作そのものや順番を短い言葉で伝えます。
- 関わり方: 急かさず、子ども一人ひとりのペースに寄り添います。抱っこやスキンシップを通して、安心してルーティンを繰り返す経験を提供します。
幼児期(2-3歳児)
簡単な指示や短い言葉で、ルーティンの「次」を意識させ始めます。
- 声かけ: 具体的な行動と言葉を結びつけます。「手洗い終わったら、おやつだよ」「お着替えしたら、絵本読もうね」。時間の長さより、「何が終わったか」「次は何をするか」を明確に伝えます。
- 視覚的なヒント: ルーティンの流れを簡単な絵カードで見せることも有効です。(例:手洗いカード→おやつカード)
- 導入: 「手洗い、する人ー?」と問いかけ、子どもが自らルーティンに参加するきっかけを作ります。
幼児期(4-5歳児)
簡単な時間の単位や、おおよその所要時間を意識する声かけを取り入れます。自分でルーティンの順番を意識し、見通しを持って行動することを促します。
- 声かけ: 所要時間を示す声かけを取り入れます。「手洗いは、おさかなの歌を歌っている間に終わらせてみよう」「着替え終わったら、あと〇分でお集まりが始まるよ」。ただし、厳密な時間ではなく、目安として伝えます。
- 自分で考える機会: 「お着替えの後、何して遊ぼうかな?」と問いかけ、ルーティンが終わった後の活動について見通しを持つことを促します。「歯磨きの前は何をしていたんだっけ?」と前の活動を振り返ることも時間軸の理解につながります。
- 役割: 手洗いの合図をする当番など、ルーティンに関わる簡単な役割を与えることで、時間や順番を意識するきっかけとします。
保育現場での実践アイデア
- 「時間のおとも」を取り入れる: 手洗いの際に砂時計を置く、着替えの際に短い童謡を歌うなど、特定の動作と時間を示す目印を結びつけます。これは、時間そのものを意識させるより、動作にかかる「長さ」を体感させるのに役立ちます。
- ルーティン表を「見える化」する: 一日の生活の流れや、特定のルーティン(例:お昼ご飯の準備:手洗い→配膳→食事→片付け)をイラストや写真で示し、子どもたちがいつでも確認できるようにします。
- 声かけのポジティブな工夫: 「早くしなさい」ではなく、「手洗いが終わったら、楽しいことが待っているよ」「〇〇ちゃんみたいに素早く着替えられたら、もう遊べるね」など、未来への期待や肯定的な言葉がけで行動を促します。
- 遊びとルーティンを結びつける: お医者さんごっこで診察の「順番」を守る、お店屋さんごっこでお金の受け渡しの「手順」を踏むなど、遊びの中で自然と順序や時間の流れを意識する機会を作ります。
保護者へのアドバイス例
保護者懇談会や個別の面談で、家庭でのルーティンが子どもの時間感覚に与える良い影響を伝えることができます。
- 「登園前の支度や食事など、ご家庭でも決まった順序や流れを作ってみることで、お子さんが自分で『次はこれをするんだな』と見通しを持つ練習になります。」
- 「『あとでね』と言う代わりに、『このおもちゃを片付けたら、おやつにしようね』のように、具体的な行動と次の出来事を結びつけて伝えると、お子さんは見通しを持ちやすくなります。」
- 「お子さんのペースを大切にしながら、『この歌が終わるまでにここまですることにチャレンジしてみようか?』など、遊び感覚で時間の長さを体感する機会を作るのもおすすめです。」
まとめ
毎日の繰り返されるルーティン活動は、子どもたちが時間の流れ、順序、そして所要時間を自然に体感できる貴重な機会です。保育士がこれらの場面で意識的な声かけや環境構成を行うことで、子どもたちの時間感覚の発達を力強くサポートすることができます。ルーティンを通して育まれた見通しを持つ力や自己調整力は、将来の子どもたちの生活や学習の基盤となるでしょう。日々の保育の中で、当たり前のルーティンの中に隠された学びのヒントをぜひ見つけてみてください。