出来事の『積み重ね』で感じる時間の流れ:振り返り活動で育む未来への見通し
時間感覚は、子どもが自己を認識し、社会と関わり、未来を計画していく上で基盤となる重要な力です。時間の流れを理解するためには、単に現在の出来事を認識するだけでなく、過去の出来事を振り返り、それが現在の自分や未来にどのように繋がっているのかを感じ取ることが役立ちます。
日々の出来事を『積み重ね』として捉え、振り返る活動は、子どもが時間感覚を育む上で非常に有効なアプローチとなります。これは、単に記憶を辿るだけでなく、出来事の連続性や因果関係を理解し、自己肯定感を高め、未来への見通しを持つための重要なステップとなります。
この記事では、出来事の振り返り活動を通して、子どもが時間の流れを感じ、未来への見通しを育むための保育現場での具体的なヒントをご紹介します。
なぜ過去の出来事の振り返りが重要なのか?
子どもが過去の出来事を振り返ることは、以下のような時間感覚や認知発達に繋がります。
- 時間の『線』としての理解: 過去の出来事を思い出すことで、時間が途切れたものではなく、連続した流れであることを体感します。
- 出来事の連続性・因果関係の理解: 「〇〇したから、次に〇〇になったんだね」「これを頑張ったから、これができるようになったんだね」といった経験を通して、出来事には繋がりがあることを学びます。
- 自己肯定感の育み: 「こんな楽しかったことがあった」「前はできなかったけど、これができるようになった!」など、過去のポジティブな出来事や自分の成長を振り返ることで、自己肯定感が高まります。
- 未来への見通し・計画性の基礎: 過去の経験に基づき、「次はこうしてみよう」「明日はこれをしたい」といった未来への見通しや計画を立てる力の基礎が養われます。
- 記憶の定着と言語化: 出来事を言葉にして振り返ることで、記憶が定着し、表現力が豊かになります。
保育現場での具体的な振り返り活動のヒント
年齢や発達段階に応じて、様々な形で振り返り活動を取り入れることができます。
乳幼児向け(0~2歳児クラス)
乳幼児期は、まだ抽象的な時間概念を理解することは困難ですが、身近な出来事を五感を通して捉え、短いスパンでの出来事の連続性を感じ始める時期です。
- 短いスパンでの声かけ: 食事の後や遊びの終わりなど、活動の切り替え時に「ご飯美味しかったね」「〇〇のおもちゃで遊んで楽しかったね」など、直前の出来事を具体的に声かけます。
- 五感を伴う声かけ: 「お散歩で△△の花を見たね、きれいだったね」「今日のリンゴ、甘くて美味しかったね」など、五感に訴えかける言葉で出来事を思い出させます。
- 写真や連絡帳の活用: 連絡帳に載っている写真を見ながら「今日の〇〇ちゃん、こんな笑顔でお外遊びしてたね」などと話しかけ、一緒に一日を振り返ります。
- 繰り返しの活動: 「朝の会」「おやつ」「お散歩」など、毎日繰り返される活動を通して、一日の流れを体感し、出来事の積み重ねを感じ取ります。
幼児向け(3~5歳児クラス)
この時期になると、言葉での表現力が高まり、過去の出来事を具体的なイメージとして思い浮かべることができるようになります。
- 一日の終わりの振り返り: 帰りの会などで「今日一番楽しかったことは何かな?」「今日の給食、美味しかった?」「今日、〇〇なことがあった人はいる?」など、子どもたちにその日の出来事を発表してもらう時間を設けます。
- 絵や言葉での記録: 「今日の楽しかったこと」を絵に描いたり、短い言葉で表現したりする時間を設けます。個人ノートやクラスの壁面に掲示するのも良いでしょう。
- 週間・月間の振り返り: 週の終わりや月の終わりに、「今週はこんなことがあったね」「来月は運動会があるね、先月は〇〇があったから、次は運動会だね」など、カレンダーや行事の絵を見ながら、少し長いスパンでの出来事を振り返ります。
- 成長の実感に繋げる声かけ: 「△△ちゃん、前はこの積み木を積むのが難しかったけど、今日はこんなに高く積めるようになったね!毎日頑張ったからだね。」など、過去の様子と現在の成長を比較して伝えます。
- 未来の出来事との関連付け: 「来週の発表会に向けて、今日はこんな練習をしたね。前より上手になったね!」など、過去・現在・未来を繋げる声かけを行います。
集団での活用アイデア
クラス全体やグループで振り返り活動を行うことで、共有体験を深め、社会性の育ちにも繋がります。
- 「今日の発見・楽しかったことタイム」: 帰りの会などに時間を設け、子どもたちが自由にその日の出来事を発表します。保育者は共感的に耳を傾け、必要に応じて具体的な言葉で促します。
- クラスの出来事ギャラリー: 壁面に写真や子どもたちの絵を貼り、「〇月の出来事」「今日の遊び」といったコーナーを作ります。子どもたちがいつでも見返せるようにすることで、過去の出来事を思い出すきっかけになります。
- 振り返りシート/ノート: 個人の簡単な振り返りシートを用意し、今日の出来事を絵や言葉で記録します。継続することで、時間の流れや自分の経験を積み重ねていく感覚を養います。
- 共同での振り返り絵日記: クラスで一日を振り返りながら、大きな紙に絵や言葉で出来事をまとめていきます。
保護者へのアドバイス例
園での取り組みを家庭でも共有・連携することで、子どもたちの時間感覚の育ちをより豊かにサポートできます。
- 家庭での振り返りの習慣: 寝る前や食事中などに「今日保育園で何があった?」「今日楽しかったことは?」など、一日を振り返る簡単な会話をする時間を持つことを提案します。
- 具体的な質問で促す: 「〇〇した時、どんな気持ちだった?」「次に遊ぶ時は、どうしてみたい?」など、出来事だけでなく、感情や未来への意欲にも繋がる質問を促します。
- 写真や作品を共有: 園で撮った写真や子どもが作った作品を家庭と共有し、それを見ながら出来事を振り返ることを勧めます。
- 絵本や図鑑の活用: 季節や行事に関する絵本を通して、過去の出来事や時間の流れについて話すきっかけとすることを伝えます。
まとめ
日々の出来事を丁寧に振り返る活動は、子どもたちが時間の流れを「線」として捉え、単なる現在だけでなく過去の積み重ねの上に自分がいること、そしてその経験が未来に繋がることを感じ取るための大切な機会です。年齢や発達段階に応じた具体的なアプローチを通して、子どもたちが過去を振り返り、未来を見通す力を楽しく育んでいけるよう、日々の保育の中で意識的に取り入れていきましょう。