「自分で計画する時間」を育む：遊びや活動で身につく段取り力と時間感覚
はじめに：子どもが「自分で計画する」ことと時間感覚
子どもの発達において、遊びや生活の中で簡単な「計画」を立て、実行する経験は非常に重要です。この「自分で計画する時間」を持つことは、単に段取りを学ぶだけでなく、時間感覚や見通しを立てる力の基盤を養うことにつながります。
例えば、「このおもちゃで遊んだら、次はあっちのおもちゃで遊ぼう」「まず積み木で家を作って、それから人形を入れよう」といった、子ども自身の中での「次」や「順番」を考える思考は、未来の時間と自分の行動を結びつける第一歩です。保育者は、このような子どもの自然な思考を尊重し、少しずつサポートすることで、計画性や段取り力を育み、それが結果としてより豊かな時間感覚の獲得につながるよう促すことができます。
この記事では、遊びや日常生活の中で、子どもたちが自ら簡単な計画を立て、実行する機会をどのように提供し、その過程で時間感覚をどのように育んでいくか、具体的なヒントをご紹介します。
計画性・段取り力が時間感覚と結びつくメカニズム
子どもが何かをしようとするとき、「まず何をして、次に何をするか」という段取りを考えることは、その活動にかかる時間や、活動全体の流れを意識することにつながります。
- 順序と時間: 「この工程にはこれくらい時間がかかりそう」「これが終わったら、次はあれができるな」といった考えは、活動の順序と時間の見積もりを結びつけます。
- 見通しと待つ: 計画があることで、「この準備が終わるまで少し待つ必要があるな」といった見通しを持つことができ、「待つ」という時間感覚を養います。
- 時間配分: 遊びの中で「この時間内にここまでやろう」と意識することは、自分自身の行動と与えられた時間との関係性を理解する助けになります。
このように、計画性や段取り力を育む過程は、子どもが自分自身の行動を時間軸に乗せて捉える力を養うことと密接に関わっています。
年齢別の具体的なアプローチ
子どもの発達段階に応じて、計画性や段取りを促すアプローチは異なります。無理なく、子どもの興味やペースに合わせて進めることが大切です。
0歳児〜1歳児クラス
この時期は、まだ自分で計画を立てることは難しいですが、保育者の声かけや環境設定を通して、活動の「次」への見通しを持つ機会を提供します。
- 声かけ例:
- 「ミルクを飲んだら、おむつを替えようね」
- 「ねんねから起きたら、絵本を見ようか」
- 「お外に行く前に、帽子をかぶろうね」
- 環境設定: 活動の場所や使う物を固定することで、「ここでご飯を食べる」「あそこで眠る」といった、場所と活動の結びつきを自然に感じられるようにします。
- 繰り返し: 日常のルーティンを繰り返すことで、子どもは活動の順序を少しずつ体感していきます。
2歳児クラス
簡単な2〜3ステップの活動の順序を意識できるよう促します。言葉や指差し、絵カードなどを活用できます。
- 声かけ例:
- 「まずおもちゃをカゴに入れて、それから手を洗おうね」
- 「お砂場で遊んだら、次はすべり台に行こうか」
- 「ズボンを履いて、それからTシャツを着ようね」
- 遊びの中のヒント:
- おままごとで、「まず食材を切って、それからフライパンで炒めようね」など、簡単な料理の段取りを言葉にしてみる。
- 製作活動で、「まずこのシールを貼って、次にここに絵を描こうね」と、工程を区切って声かけする。
- 視覚的なヒント: 活動の流れを簡単な絵カードなどで示すことも有効です。
3歳児〜5歳児クラス
遊びや日常生活の中で、子ども自身が簡単な計画を立て、実行する機会を積極的に提供します。
- 遊びの中のヒント:
- ごっこ遊び: 「お店屋さんごっこをするのに、まず品物を作って、次に看板を作ろう」「お客さんが来たら、まず挨拶して、それから商品を渡そう」など、役割の中で段取りを考える機会を作る。
- 製作活動: 「今日はこれを作りたいね。何から始めようか？」「この材料はいつ使おうか？」など、子どもと一緒に工程を話し合う。完成までの簡単な見通しを持つことをサポートする。
- ブロック遊び: 「どんなものを作ろう？」「作るためには、まずどんなブロックが必要かな？」「どれくらいの時間がかかりそう？」など、計画を立てる問いかけをする。
- 日常生活でのヒント:
- 着替えや準備: 「着替えの後は何をするんだっけ？」「自分で準備できることはあるかな？」と、次の活動への見通しを促す。
- 片付け: 「おもちゃを全部片付けるには、どれくらい時間がかかるかな？」「どの場所から片付けようか？」と、片付けの段取りや時間見積もりを考える機会を作る。
- 簡単な当番活動: 食事の準備や片付けなどで、「テーブルを拭いて、それからお皿を並べよう」など、手順を意識する。
- 集団活動への応用:
- その日の活動の簡単な流れ（午前中の活動、給食、午後の活動など）をみんなで確認する時間を設ける（絵カードやホワイトボードなどを活用）。
- 遊びの時間に入る前に、「今日はこのおもちゃで遊んだ後、絵本タイムにしようね」など、次の活動を事前に伝える。
- 遊びの途中で、「あと〇分でこの遊びは終わりにして、次の準備をしようね」と声をかけ、時間の見通しを持つことを促す。
保育士の関わり方のポイント
- 完璧な計画を求めない: 子どもが立てた計画がスムーズに進まなかったり、途中で変更したりすることも自然なことです。計画通りに進めることよりも、自分で考え、試行錯誤する過程を大切に見守りましょう。
- 問いかけでサポート: 「この次は何をする？」「何から始めようか？」「〇〇をするには、あとどれくらい時間がかかるかな？」など、具体的な問いかけを通して、子どもが自分で考え、段取りを言葉にするのをサポートします。
- 見守りと声かけ: 子どもが計画を立てて実行している様子を温かく見守り、うまくいった時には「自分で考えてできたね！」、困っている時には「何か手伝えることはある？」など、適切な声かけをします。
- 成功体験を積む: 自分で計画したことを達成できたという経験は、子どもにとって大きな自信につながります。達成感を味わえるよう、難易度を調整したり、保育者が一部サポートしたりすることも必要です。
保護者へのアドバイス例
園での取り組みを家庭と連携することも重要です。保護者には、家庭でもできる簡単なアプローチを提案してみましょう。
- 「お着替えの後に歯磨き、それから朝ごはん、というように、生活の一連の流れを言葉にして伝えてみましょう。」
- 「お手伝いを頼むときに、『まずタオルを畳んで、それから棚に入れようね』など、簡単な段取りを意識させてみましょう。」
- 「週末の予定などを、絵や言葉で簡単に示し、『これが終わったら次はこれね』と見通しを共有してみましょう。」
- 「お子さんが遊びの中で『〇〇を作りたい』と言った時に、『何から作ろうか？』と一緒に考えてみるのも良いでしょう。」
まとめ
遊びや日常生活の中で、子どもが自ら簡単な計画を立て、実行する経験は、時間感覚や見通しを立てる力を育む上で非常に価値があります。保育者は、子どもの発達段階に合わせた声かけや環境設定、そして温かい見守りを通して、子どもたちが「自分で計画する時間」を楽しみ、その過程で時間感覚を自然に身につけられるようサポートしていくことが求められます。日々の保育の中で、子どもたちの「次はこうしよう！」という主体的な思いを大切にし、一緒に時間と向き合う機会をたくさん作っていきましょう。