絵本や歌で広がる時間の世界:楽しく時間の感覚を育む保育のヒント
絵本や歌が、子どもの時間感覚を育む身近なツールに
子どもたちが時間の感覚を身につけることは、日常生活の見通しを持つことや、遊びや活動に主体的に取り組む上で非常に重要です。時間という抽象的な概念を子どもに伝えることは容易ではありませんが、絵本や歌は、子どもにとって身近で親しみやすいツールとして、時間感覚を楽しく育む手助けとなります。
絵本や歌を通して、子どもたちは時間の流れ、繰り返し、順序、長短、季節の変化などを感覚的に捉えることができます。ここでは、絵本や歌を保育に効果的に取り入れ、子どもたちの時間感覚を豊かに育むための具体的なヒントをご紹介します。
絵本で時間のストーリーを感じる
時間に関連する絵本は数多くあります。一日の生活の流れ、季節の移り変わり、植物や生き物の成長、何かを待つ時間、出来事の順序などをテーマにした絵本は、時間の経過や変化を視覚的に理解するのに役立ちます。
絵本の選び方と読み聞かせのポイント
- テーマで選ぶ: 「朝起きてから夜眠るまで」といった一日の流れを描いた絵本、季節の行事が続く絵本、種から芽が出て花が咲く絵本など、子どもが興味を持ちやすいテーマを選びましょう。
- 繰り返しを楽しむ: 同じフレーズが繰り返される絵本は、次の展開への期待感を持たせ、時間の「順序」や「予測」の感覚を養います。
- 絵と言葉を結びつける: 時計の絵が出てくる場面や、時間が経過したことを示す絵(例えば、太陽の位置の変化、人の服装の変化など)に注目させ、「この絵ではまだお日様が低いね」「わあ、空の色が変わってきたね」などと声かけをします。
- 登場人物の行動と時間を関連づける: 「〇〇ちゃんがお外で遊んだ『あとで』、お片付けするんだって」「みんなで『しばらく』待ったら、バスが来たね」など、登場人物の行動と時間に関わる言葉を結びつけて伝えます。
- 余韻を楽しむ: 読み終わった後、「このお話の動物さんたちは、このあとどうするのかな?」「次にこの季節が来るのはいつかな?」などと問いかけ、想像を広げることで、物語の外の時間や未来に意識を向けさせます。
絵本後の活動アイデア
- 絵本の場面を再現: 絵本に出てくる一日の生活や特定の活動を、遊びや生活の中で真似てみます。「絵本の〇〇ちゃんみたいに、おもちゃをこの箱に入れようか」など。
- 時間の絵カード作り: 絵本の内容を元に、一日の流れや特定の出来事の絵カードを子どもと一緒に作り、並べ替え遊びをします。
- 成長の記録: 絵本で植物や動物の成長を知った後、実際に保育室で育てている植物や飼育している生き物の観察を通して、時間の経過に伴う変化を実体験します。
歌で時間の流れを体感する
歌は、リズムやテンポを通して時間の流れを感覚的に捉えるのに適しています。一日の歌、季節の歌、手遊び歌など、様々な歌が時間感覚を育むヒントになります。
歌の選び方と活用ポイント
- 一日の歌: 朝の会、給食、降園時など、特定の時間や活動の始まり・終わりに歌う歌を決めます。「この歌を歌ったら、ご飯の時間だよ」「この歌が終わったら、お外遊びに行こうね」のように、歌と活動を結びつけます。
- 季節の歌: 季節ごとの歌を歌うことで、一年が巡る時間のリズムを感じることができます。「チューリップの歌を歌うと、春が来たってわかるね」「この歌は、雪が降る頃に歌うんだよ」など。
- 手遊び歌・リズム遊び: 歌のリズムに合わせて手や体を動かす遊びは、一定の時間内に動作を合わせる感覚や、速い・遅いといった時間の長短を感じるのに役立ちます。
- 歌詞に注目: 歌詞の中に「朝」「昼」「夜」「昨日」「今日」「明日」といった時間に関する言葉が出てくる歌を選び、その言葉が出てきたら特定のジェスチャーをするなどの遊びを取り入れます。
歌を活用した遊びアイデア
- タイムソング: 特定の活動時間(例えば、片付けの時間)を決めて、その時間だけ流す「タイムソング」を決めます。歌が終わったら活動も終了、とすることで、時間を意識する習慣が身につきます。
- ストーリーソング: 時間の経過や順序を含む物語性の歌(例えば、おむすびころりんなど)を、ジェスチャーや簡単な劇にして遊びます。
- 速さ比べっこ: 同じ歌を、ある時はゆっくり、ある時は早く歌ってみて、「どっちが長い時間かかったかな?」と問いかけます。
年齢別のアプローチ例
- 0〜2歳児:
- 短い時間で読める、繰り返しの多い絵本を好みます。絵の変化と「いないいないばあ」などの時間的なズレを楽しむことで、時間の感覚の基礎を養います。
- 一定のリズムの歌や、手遊び歌に合わせて体を動かすことで、時間の流れや繰り返しを感覚的に捉えます。
- 特定の歌(例えば「ごはんの歌」)と活動を結びつけ、「この歌が始まったらご飯の時間だよ」と伝えることで、時間と出来事の関係を理解し始めます。
- 3〜5歳児:
- ストーリー性のある絵本を通して、時間の経過や登場人物の時間の使い方に興味を持つようになります。「あの時どうだったかな?」と過去を振り返ったり、「この後どうなると思う?」と未来を予測したりする声かけが効果的です。
- 季節の歌や行事の歌を通して、一年間の時間の流れや区切りを意識します。
- 歌や手遊びの中で、友達とタイミングを合わせたり、終わりの合図を意識したりすることで、集団の中での時間共有の感覚を養います。遊びの時間にタイマーソングを使うなど、具体的な時間ツールと歌を結びつけることも有効です。
集団での活用と保護者への連携
絵本や歌は、集団で時間を共有する感覚を育むのに適しています。みんなで同じ絵本を読み、同じ歌を歌うことで、活動の始まりや終わりを共有し、一体感を持って時間の流れを感じることができます。
また、保護者に対して、園で歌ったり読んだりした絵本や歌を紹介し、家庭でも一緒に楽しんでもらうよう促すことも大切です。絵本や歌を通して、子どもが園での出来事を保護者に話すきっかけにもなり、園と家庭で連携して時間感覚を育む環境を作ることができます。
まとめ
絵本や歌は、子どもたちにとって「時間」という抽象的な概念を、感覚的で楽しい体験を通して理解するための素晴らしいツールです。物語の展開、歌のリズム、歌詞の内容などを通して、子どもたちは時間の流れ、繰り返し、順序、長短、そして季節の移り変わりといった様々な時間に関する要素を自然に感じ取ります。
保育現場では、今回ご紹介したような絵本や歌の選び方、読み聞かせ・歌遊びのポイント、年齢別の具体的なアプローチなどを参考に、子どもたちが遊びや日常生活の中で楽しく時間と関わる機会を積極的に作っていただきたいと思います。絵本や歌の豊かな世界を通して、子どもたちの時間感覚はさらに広がっていくことでしょう。