特別な日を心待ちに:イベントで学ぶ時間感覚と見通し
子どもたちにとって、遠足、発表会、クリスマス、誕生日といった特別な出来事は、日々の生活に彩りを与え、大きな喜びをもたらします。これらの特別な日を「楽しみに待つ」という経験は、実は子どもが時間感覚や見通しを育む上で非常に重要な機会となります。特定の期日がある出来事を心待ちにする過程で、子どもたちは無意識のうちに時間とその流れを意識し始めるからです。
保育現場では、このような特別な日を意図的に活用することで、子どもの時間感覚をより豊かに育むことができます。この記事では、特別な日を心待ちにする経験がどのように子どもの時間感覚の発達に繋がるのか、そして保育現場で実践できる具体的なアプローチを年齢別、集団での活動例とともにご紹介します。
なぜ特別な日が時間感覚を育むのか?
特別な日、特に子どもにとって魅力的で楽しみなイベントは、子どもが時間に関心を持つ強い動機付けとなります。
- 具体的な目標期日がある: 「〇月〇日の発表会」「来週の遠足」のように、具体的な期日が設定されていることで、子どもたちは漠然とした「いつか」ではなく、「その日までに」という具体的な見通しを持ちやすくなります。
- 期間の長さを体感できる: イベントまでの日数を数えたり、そのために準備をしたりする過程で、「発表会まであと何日もあるな」「遠足までまだ長いな」といった期間の長さを体感します。これは「〇分」「〇時間」といった短い時間単位だけでなく、日や週といったより長い時間単位の感覚を養うことにも繋がります。
- 活動と時間の関連を学ぶ: イベントに向けての練習や準備活動(衣装作り、歌の練習、てるてる坊主作りなど)を行うことで、「この活動はイベントのため」「これが終わればイベントが近づく」といったように、特定の活動が特定の期日や期間と結びついていることを学びます。これは、活動にかかる時間や、複数の活動をこなすことで時間が経過していく感覚の基礎となります。
- 見通しと期待感の育み: 特別な日を心待ちにする経験は、子どもが先の出来事を見通し、それに向けて気持ちを高める力を育みます。見通しを持つことは、時間の流れを理解し、未来への期待感を抱く上で欠かせない要素です。
年齢別の取り組み例
子どもの発達段階に応じて、特別な日を活用した時間感覚の育み方は異なります。
乳児期(0~2歳)
この時期の子どもたちは、数日先、数週間先といった長期的な時間の見通しを持つことはまだ難しいです。しかし、繰り返し行われる特定の活動や、普段と少し違う「特別な」ルーティンを通して、短いスパンでの期待感や時間の感覚の基礎を養うことができます。
- 短いスパンの「特別な時間」を設ける: 「今日はいつもより少し長い時間、お外で遊ぼうね」「おやつの後は、みんなで絵本を読む特別な時間だよ」など、一日のルーティンの中に少し変化をつけ、「特別な時間」として意識させる声かけをします。
- 特定の曜日の活動を意識させる: 例:「水曜日はリズム遊びの日」「金曜日はお弁当の日」など、曜日と特定の楽しい活動を結びつけ、繰り返し行うことで、短い周期での「待つ」経験や、特定の日に特別なことがあるという感覚を育てます。お弁当の日には「今日は〇曜日だから、お弁当の日だね!」と分かりやすく声かけします。
- 写真や絵カードの活用: 週に一度のイベント(例: 英語教室、体操教室)の前日に、その活動の様子の写真や簡単な絵カードを見せて「明日、これがあるよ。楽しみだね」と繰り返し伝えることで、次の日にある特別な出来事を意識する手助けをします。
幼児期(3~5歳)
この時期になると、数日、数週間といった少し先の出来事を見通し、期待する力が育ってきます。具体的な「見える化」や、準備活動と組み合わせることで、時間感覚を深めることができます。
- カレンダーでの見える化: 大きなカレンダーを用意し、発表会や遠足などの特別な日に分かりやすいマーク(絵や写真)をつけます。毎日、子どもと一緒に「今日はここ!」と確認し、特別な日まであと何日あるかを指差しや数字で示します。「遠足まであと〇日だね!」「カレンダーのこの印の日になったら発表会だよ」と声かけながら、日数の減り具合を視覚的に捉えさせます。日めくりカレンダーや、チェーンを一日ずつ外していくカウントダウンも有効です。
- 準備活動と期日を結びつける:
- 発表会:練習を重ねる過程で、「歌を覚えたら発表会が近づくね」「衣装を着て練習する日は、発表会がもっと近い日だよ」と、準備の進捗と期日を結びつけて伝えます。
- 遠足:しおり作りや、遠足で使うお弁当袋の準備など、「これができたら、いよいよ遠足だね!」と声かけます。
- クリスマス:クリスマスツリーの飾りを一つずつ作ったり、クリスマスの歌を練習したりする過程で、期待感を高めながら期日を意識させます。
- 過去のイベントを振り返る: アルバムや写真を見ながら「去年の発表会では、〇〇ちゃんの役だったね」「あの時の遠足は、このバスに乗って行ったね」など、過去の特別な日を振り返ることで、時間軸の感覚を養います。「去年」や「前回の〇〇」といった過去の出来事を基準に、現在の出来事が時間的にどう位置づけられるかを理解する手助けとなります。
- 時間に関する語彙の活用: 「来週の〇曜日」「明後日」「今週は〇〇があるね」など、イベントと関連付けながら、より具体的な時間を示す語彙を使います。絵カードや写真と組み合わせて視覚的に分かりやすく伝える工夫も有効です。
集団での活用法
特別な日を心待ちにする経験は、集団の中で共有することで、楽しさが増すだけでなく、みんなで時間を意識する良い機会となります。
- 共通のカウントダウン: 園全体やクラスで共有のカレンダーやカウントダウンボードを用意し、毎日みんなで確認します。「今日も一つシールを貼ったね!」「チェーンが短くなってきたね、発表会が近づいてきた!」など、共通の目標に向けて時間が進んでいることを意識させます。
- イベントに向けた共同制作や練習: 発表会の背景画をみんなで描く、合唱や劇の練習を共に行うなど、イベントに向けた準備活動を共同で行います。これにより、子どもたちは「この活動はみんなで発表会を成功させるため」という共通の目的意識を持ち、活動にかかる時間や、みんなで協力して時間を使うことの重要性を学ぶことができます。
- イベント後の振り返り: 特別な日が終わった後に、写真を見ながら「楽しかったね!」「こんなことがあったね」とみんなで振り返ります。楽しかった経験を共有することで、過去の出来事として記憶に定着させるとともに、次の特別な日への期待に繋げます。
保護者へのアドバイス例
特別な日に関する園の取り組みを保護者と共有し、家庭でも連携して時間感覚を育むサポートをお願いすることは重要です。
- 「今度〇月〇日に発表会があります。園ではカレンダーでみんなで日数を数えたり、準備をしたりして楽しみにしているところです。ご家庭でも、発表会の話題を出したり、カレンダーを見ながら『あと〇日だね』と話したりしていただくことで、より時間への関心が高まりますので、ご協力をお願いいたします。」
- 「遠足を心待ちにする気持ちは、時間感覚や見通しを育む大切な経験です。遠足で使うものの準備を一緒に行ったり、『遠足の日まであと〇回寝たら...』のように声かけたりして、お子さんの期待感を大切に見守っていただければ幸いです。」
- 園でのカウントダウンの様子や準備活動の写真を共有することで、家庭での話題作りを促すことも効果的です。
まとめ
遠足や発表会といった子どもにとっての特別な日は、単なる楽しいイベントに留まらず、時間感覚や見通し、期待感を育むための貴重な学びの機会となります。子どもたちの「楽しみだな」「早く来ないかな」という気持ちに寄り添いながら、日数の見える化や準備活動と結びつけるなど、保育士が意図的に関わることで、子どもたちは主体的に時間と関わり、その感覚を豊かに育んでいくことができます。日々の保育の中で、特別な日を心待ちにする子どもたちの姿を温かく見守り、時間への興味を引き出す働きかけを続けていきましょう。