保育室を飛び出して!:屋外活動で体感する子どもの時間感覚
屋外活動は、子どもたちが全身を使って自然と触れ合い、多様な学びを得る貴重な時間です。保育室内の活動とは異なり、周囲の環境や状況が常に変化するため、子どもたちは様々な感覚を研ぎ澄ませて活動しています。この屋外という特別な環境は、時計や視覚的な時間表示に頼りがちな保育室とは異なる形で、子どもたちの時間感覚を育む絶好の機会となり得ます。
屋外における時間感覚の特性
保育室では、壁にかかった時計やデジタルタイマー、活動の順番を示す絵カードなど、時間を「見える化」する様々なツールを活用できます。しかし、園庭や公園、散歩中では、これらのツールを常に使うことは現実的ではありません。屋外では、子どもたちはより感覚的、身体的に時間の経過を捉える傾向があります。
- 自然の変化: 太陽の光の強さや向き、影の長さ、風の吹き方、気温の変化、植物や虫の様子など、自然環境の移り変わりを通して時間の流れを感じます。
- 身体感覚: 疲労感、空腹感、喉の渇きなど、自分の体の状態の変化を時間と結びつけて感じることがあります。
- 活動内容: 「あの木まで走る」「滑り台を3回滑る」「砂場で山を作る」など、具体的な行動や目標の達成度を時間の区切りとして捉えます。
これらの感覚は、抽象的な時刻や時間単位の理解よりも、子どもたちの内的な時間感覚や、特定の活動にかかる時間の「体感」を育む上で非常に重要です。
屋外活動で時間感覚を育む実践的なヒント
屋外での時間感覚の育み方は、子どもの発達段階や活動内容によって工夫が必要です。ここでは、年齢別の具体的なアプローチと、共通して活用できるヒントをご紹介します。
乳児(0歳~2歳)
この時期の子どもは、抽象的な時間は理解できません。保育者の声かけや体のリズム、身の回りの具体的な変化を通して、活動の始まりや終わり、次の行動への見通しを感じ取ります。
- 声かけの工夫:
- 散歩に出かける前に「さあ、帽子をかぶってお外に行こうね」とこれから始まる活動への期待を持たせる。
- 特定の場所に着いたら「このベンチが見えたら、ちょっと休憩だよ」と具体的な目印と活動を結びつける。
- 「もうすぐ園に着くね」「お部屋に帰る時間だよ」と、帰ることを優しく知らせる。
- 遊びを終える際に「〇〇遊び、楽しかったね。そろそろおしまいにして、手を洗おうね」と、終わりの合図と次の行動を伝える。
- 体のリズムに寄り添う: 空腹や眠気、疲労などのサインを捉え、活動時間や休憩のタイミングを調整します。心地よいリズムの中で過ごすことが、安心感とともに日中の時間の流れを体感することに繋がります。
幼児(3歳~5歳)
具体的な目標設定や、活動内容と時間の関係性を意識した声かけが有効になります。時間の見通しを持つことで、遊びへの集中力を高めたり、活動の切り替えをスムーズにしたりすることを目指します。
- 具体的な目標設定と声かけ:
- 砂場遊びで「このお山が完成するまで遊ぼうか」と、具体的な成果を時間の区切りにする。
- 虫探しで「アリさんを5匹見つけるまで頑張ってみよう」と、数と活動時間を結びつける。
- 鬼ごっこで「この木まで鬼が来たら、タッチだよ」と、距離や場所を時間の目安にする。
- 「ブランコ、あと3回にしようね」と、回数で区切りを伝える。
- 帰りの時間への見通し:
- 園庭遊びの終わりに「お部屋に帰るまであと〇分だよ。この〇分で何をして遊ぶ?」と、残りの時間を意識させ、自分で遊びを選択する機会を与える。
- 散歩中に「あの大きな木が見えたら、園はもうすぐそこだよ」「この道を曲がったら園だよ」と、具体的な目印で帰る場所が近いことを伝える。
- チャイムの音や保育者の声かけなど、特定の合図で活動の終わりを知らせることを習慣化する。
- 「もっと遊びたい」気持ちへの寄り添い: 子どもの「もっと遊びたい」という気持ちを受け止めつつ、「楽しい時間はあっという間だったね」「また明日遊ぼうね」と、時間の区切りがあることを優しく伝えます。遊びの楽しかった場面を振り返ることで、充実した時間を過ごせたという感覚を育みます。
年齢共通のヒント
- 活動の始まりと終わりを明確に: 「さあ、お外で元気に遊ぼう!」「今日の外遊びはこれでおしまいにしようね」など、活動の区切りを言葉で伝えます。
- 遊びの内容と時間の流れを結びつける: 例えば、砂場でトンネルを掘る遊びなら「トンネル、どこまで繋がるかな?時間がかかるね」「あっという間に崩れちゃったね」など、遊びの展開や成果と時間の流れを結びつけて言葉にします。
- 自然の変化に注目する: 太陽が少しずつ傾いていること、影が伸びていることなど、自然の変化に子どもと一緒に気づき、「もうすぐ夕方かな?」「そろそろ帰る時間だね」などと時間と結びつけて話してみます。
- 休憩や水分補給を時間感覚と結びつける: 「いっぱい走って汗をかいたから、休憩の時間にしよう」「お茶を飲んだら、また遊ぼうね」など、体のサインを休憩の時間と結びつけ、時間の区切りとして意識させます。
集団での活用
屋外活動は集団で行うことが多いため、「みんなで同じ時間、同じ目標を共有する」経験を通して、社会性と時間感覚を同時に育むことができます。
- 終わりの合図の共通認識: 「帰る時間だよー!」の声かけに加えて、特定の音楽を流す、手拍子をする、特定の場所に集まるなど、園独自の終わりの合図を決め、子どもたちに周知します。この合図を通して、集団としての活動の終わりを意識するようになります。
- みんなで時間内に目標を達成する遊び: 例えば、「みんなで協力して、〇分でこのエリアの石を全部集めよう!」「お部屋に戻るまでに、園庭の端まで競争だ!」など、時間制限のある簡単なゲームを取り入れることで、時間を意識しながら友達と協力する経験ができます。ただし、競争や成果にこだわりすぎず、楽しむことを優先します。
- 待つ時間の共有: 遊具の順番を待つ際に、「〇〇ちゃんが滑り終わるまで待とうね」「みんなで順番に滑る時間だよ」など、他の人の活動を待つ時間も、集団の中での時間共有の経験となります。
保護者へのアドバイス例
園での取り組みを家庭と共有し、連携することで、子どもたちの時間感覚はより豊かに育まれます。屋外活動における家庭でのアドバイス例を伝えてみましょう。
- 「公園に行くのは楽しいね。〇分遊んだら帰ろうか」「あの時計の長い針が下にきたら帰る時間だよ」など、具体的な約束や目印を使って時間の見通しを持たせる声かけをしてみてはいかがでしょう。
- 「今日は太陽がすごくまぶしいね、もうお昼かな?」「夕焼けがきれいだね、もうすぐ夜だね」など、自然の変化と時間の移り変わりを一緒に感じて話してみてください。
- 休日のお出かけで「あの場所まで行ったら、ちょっと休憩の時間にしようね」など、移動の距離や場所を時間の区切りとして伝えるのも良い方法です。
まとめ
保育室の外、広々とした空間での活動は、子どもたちが五感を使い、体全体で時間を体感する貴重な機会です。時計に頼るだけでなく、自然の変化や身体感覚、活動の内容と結びつけて時間を捉える経験は、子どもたちの多様な時間感覚を育みます。年齢や活動内容に合わせた声かけや工夫を取り入れることで、子どもたちは屋外でも時間の見通しを持ち、遊びへの集中やスムーズな活動の切り替えができるようになります。屋外という解放的な環境での時間感覚の学びは、子どもたちの心身の成長を豊かに支えていくことでしょう。