時間感覚と感情の育ちの関係性:子どものイライラや喜びとどう向き合うか
時間感覚は、子どもが日々の生活に見通しを持ち、活動を調整するために重要な力です。この時間感覚の育ちは、子どもの感情とも深く結びついています。時間を守れないことへのフラストレーション、終わりの見通しが立たない不安、そして時間通りにできた時の達成感など、様々な感情が時間の経験を通して育まれます。
この記事では、子どもの時間感覚の発達と感情の育ちの関係性について解説し、保育現場で子どもの感情に寄り添いながら時間感覚を育むための具体的な関わり方やヒントをご紹介します。
時間感覚の発達と感情の関係性の理解
子どもたちの時間感覚は、発達段階によって大きく異なります。
- 乳幼児期(0〜2歳頃): この時期の子どもは、未来や過去といった時間軸の概念をほとんど持っていません。目の前の「今」の欲求や感覚が中心です。そのため、「あとで」と言われても理解できず、すぐに満たされないことへの不満や、急かされることへの不安を感じやすい時期です。生活リズムの中で繰り返される活動(授乳やお昼寝、遊びの時間など)を通して、心地よい時間の流れを感覚的に感じ取ります。
- 幼児期(3歳頃から): 過去や未来の概念が少しずつ芽生え、「きのう」「きょう」「あした」といった言葉や、「朝」「夜」といった時間のまとまりを理解し始めます。遊びや活動の終わりを予告されることで、次の活動への見通しを持つことができるようになります。しかし、時間通りに進まないことへのイライラや、思ったよりも時間がかかったことへの不満を感じることもあります。一方で、時間内に目標を達成できた時には、大きな達成感や喜びを感じるようになります。集団生活を通して、みんなで時間を共有する経験(朝の会、給食の時間など)も、時間感覚と感情の育ちに影響を与えます。
このように、時間への理解が浅い段階では、時間に関連して不安やイライラといったネガティブな感情が出やすいことがあります。しかし、時間感覚が育ち、見通しが持てるようになると、安心感や達成感といったポジティブな感情につながる経験が増えていきます。
保育現場での具体的な関わり方・ヒント
子どもの時間感覚を育む際には、単に時間を守らせるだけでなく、そこに生まれる感情に寄り添うことが大切です。
1. 子どものイライラや不安への対応
時間通りにいかない、遊びを切り上げなくてはならないなど、時間に関連して子どもがイライラしたり不安を感じたりすることはよくあります。
- 具体的な見通しを示す声かけ:
- 「これが終わったら、次はお片付けだよ」「このおもちゃをカゴに入れたら、おやつだよ」など、具体的な活動と時間を結びつけて伝えます。
- 「砂時計の砂が全部落ちたら終わりね」「タイマーが鳴ったらおしまいだよ」など、視覚的・聴覚的に時間を「見える化」するツールを併用します。
- 「あと〇分ね」と伝える際は、「長い針が△のところに来たら」など、子どもが理解しやすい具体的な目印を示すとより効果的です。
- 感情への共感:
- 「もっと遊びたかったね、残念だね」「急いで着替えるのが大変だったね」など、子どもの気持ちに寄り添い、言葉にして代弁します。感情を受け止めることで、子どもは安心し、落ち着いて時間と向き合いやすくなります。
- 時間への挑戦を肯定的に捉える:
- 時間内にできなかったとしても、「惜しかったね!」「次にもう少し早くできそうかな?」など、失敗を否定せず、次に繋がる声かけをします。挑戦する気持ちを認め、応援する姿勢が大切です。
2. 達成感を育む関わり
時間感覚の育成において、成功体験は何よりの力になります。時間とポジティブな感情を結びつける経験を重ねることが重要です。
- 時間を意識した遊びを取り入れる:
- 「〇分でブロックを全部片付けられるかな?」「タイマーが鳴るまでにここまで色を塗ってみよう」など、遊びの中に簡単な時間設定を取り入れます。ゲーム感覚で楽しく挑戦できるように工夫します。
- リレー遊びや鬼ごっこなど、自然と時間を意識するような集団遊びも効果的です。
- 目標時間の設定と振り返り:
- 子ども自身に簡単な目標時間を見積もらせる機会を設けます(例:「お絵かきはあと何分で終わらせられそう?」「このパズルはどれくらいでできるかな?」)。
- 活動後、「今日の片付けは〇分でできたね!」「△分で見積もったけど、ちょっと時間がかかったね。次はどうしたら良いかな?」など、結果を共有し、振り返ることで、時間感覚と自己調整力を養います。
- 具体的な称賛:
- 時間内にできたこと、時間を意識して取り組んだ過程を具体的に称賛します。「△分で着替えられたね!すごいね、早くなったね」「タイマーを見ながら自分で片付けを始められたね、偉いね!」など、努力や成長のポイントを伝えます。
3. 年齢別の対応例
- 0-2歳児: 一日の生活リズムを大切にし、活動の移行はゆっくりと丁寧に行います。「ミルクの時間だよ」「お着替えしようね」など、これから行うことを具体的に伝え、心地よい声かけを心がけます。待てないことへの不安に寄り添い、スキンシップなどで安心感を与えます。
- 3-4歳児: 遊びの終わりを「あと〇分だよ」「長い針がここに来たらおしまいね」など、具体的な予告を取り入れます。タイマーや砂時計、絵カードの時間割など、視覚的なツールを活用し、「時間」の概念を具体的に理解できるようサポートします。活動の切り替え時には、次の活動への期待感を持たせる声かけをします。
- 5歳児: 簡単な活動であれば、自分で時間を見積もったり、「この時間までに終わらせよう」と目標設定したりする経験を促します。当番活動や係活動を通して、集団の中での時間の役割や責任を経験します。時間通りにできた/できなかった経験を振り返り、「どうすれば時間をうまく使えるか」を一緒に考える機会を設けます。
4. 集団活動での応用
集団で時間感覚を共有することは、協力性や見通しを持つ力を育みます。
- 朝の会や帰りの会など、始まりと終わりの時間を明確に意識する。
- 活動と活動の間に、休憩や次の準備時間を設けることを全体で共有する。
- みんなで協力して時間内に何かを達成する遊びを取り入れる(例:みんなで〇分以内に部屋をきれいにするチャレンジ)。
- 一日の流れを絵カードなどで「見える化」し、子どもたちがいつでも確認できるように掲示する。
5. 保護者へのアドバイス例
家庭と園が連携することで、子どもの時間感覚の育ちをより効果的にサポートできます。
- 家庭でも「あと〇分でご飯だよ」「長い針が上のところに来たらお風呂に入ろうね」など、具体的な声かけや時間を示す工夫を取り入れてもらうよう伝えます。
- 早寝早起きなど、規則正しい生活リズムを整えることの重要性を伝えます。
- 子どもが時間でイライラした時に、園でどのように声かけたり、見通しを示したりしているか具体的な例を伝え、家庭でも試してもらうよう促します。
- 子どもが時間通りにできた時や、時間を意識して頑張った時に、具体的に褒め、達成感を共有することの大切さを伝えます。
まとめ
子どもの時間感覚を育むことは、単に時計の読み方を教えたり、時間を守らせたりすることに留まりません。それは、活動に見通しを持ち、感情を調整し、自己肯定感を育むといった、子どもの心の成長そのものと深く関わっています。
日々の保育の中で、子どもたちが時間に関連して経験する様々な感情に丁寧に寄り寄りながら、遊びや日常生活を通して、楽しく時間と関わる機会を豊富に提供していくことが重要です。子どもたちの「できた!」という達成感や、見通しが持てる安心感を育むことで、時間感覚は豊かな感情とともに、より確かに根付いていくでしょう。