遊びの発展で育む時間感覚:ごっこ遊びや制作を通して学ぶ見通しと計画
遊びの発展が育む時間感覚とは
子どもの遊びは、年齢や興味の発達に伴い、より複雑で目的を持ったものへと変化していきます。単純な模倣遊びから、役割分担のあるごっこ遊び、具体的な完成を目指す制作遊びなど、遊びが発展する過程で、子どもたちは自然と様々な時間感覚を身につけていきます。
単に「遊ぶ時間」として漠然と捉えていたものが、「この役をやるにはどのくらい時間がかかるかな」「これを作るにはどんな手順で進めよう」「みんなで一つのものを作るには、どのタイミングで声をかけ合おう」といった、遊びの中での順序、見通し、計画性、そして他者との時間調整といった、より実践的で社会的な時間感覚へと繋がっていくのです。
保育者は、このような遊びの発展段階を理解し、適切な声かけや環境構成を行うことで、子どもたちの時間感覚の育ちをサポートすることができます。
ごっこ遊びに見る時間感覚の発達
ごっこ遊びは、子どもの時間感覚の発達を促す上で非常に有効な遊びの一つです。
単純な模倣・再現遊び(乳児〜2歳頃)
身近な大人の行動や日常の出来事を真似する遊びから始まります。「もしもし」とおもちゃの電話を耳にあてたり、コップで飲むふりをしたり、といった単発的な行動の模倣です。この段階では、遊びの中に明確なストーリーや時間の流れはありません。
- 保育者の関わり方:
- 子どもの模倣行動に寄り添い、「ご飯食べてるね」「電話してるの?」など、見ていることを言葉で伝えます。
- 遊びに必要な小道具(お皿、コップ、電話など)を用意し、模倣しやすい環境を整えます。
簡単な役割のあるごっこ遊び(3歳頃)
「お母さん」「赤ちゃん」「お店屋さん」「お客さん」など、簡単な役割を設定し、短いやり取りを伴うようになります。「いらっしゃいませ」「これください」といった特定の場面での短い時間の流れを経験します。
- 保育者の関わり方:
- 子どもの役割になりきり、短い会話のキャッチボールを楽しみます。「何屋さんですか?」「ありがとう」など、次の展開を促す声かけをします。
- 遊びの始まりと終わりを言葉にする(「お店屋さんごっこ、始まるよ」「そろそろおしまいにしようか」など)ことで、遊びの中での時間的な区切りを意識させます。
ストーリー性のあるごっこ遊び(4歳〜)
複数の役割が登場し、始まりから終わりまでの簡単なストーリーを伴うようになります。例えば、病院ごっこなら「お医者さんになって、患者さんを診察して、お薬を出す」といった一連の流れを経験します。これにより、出来事の順序や、ある行動から次の行動までの時間的な繋がりを意識するようになります。
- 保育者の関わり方:
- 子どものストーリー展開に耳を傾け、必要に応じて「この次はどうなるのかな?」「〇〇ちゃんはどうするの?」など、遊びの先を見通す声かけをします。
- 遊びの小道具を充実させ、様々な役割や場面設定ができるようにします。
- 「もうすぐご飯の時間だから、あと一回だけにしようか」「この患者さんを診たら、おしまいにしようね」など、現実の時間を意識した遊びの調整を経験させます。
複雑な役割と見通しを伴うごっこ遊び(5歳〜)
複数の場面設定や、登場人物それぞれの視点からの時間の流れを理解し始めるようになります。例えば、お店屋さんごっこで「仕入れに行って、商品を並べて、お店を開けて、お客さんを待って、売る」といった、より長い時間軸と、複数の役割(お店側、お客さん側)からの見通しが必要となる遊びです。集団でのごっこ遊びでは、自分の役割だけでなく、他の友達の行動や時間(順番待ちなど)も考慮に入れる必要が出てきます。
- 保育者の関わり方:
- 遊びの前に簡単な計画を話し合う機会を設けます。「今日はお弁当屋さんを開こうか。誰がお弁当を作る係?誰がお客さんになってくれる?」「まず何から始めようか?」など、遊びの順序や役割、おおよその流れを一緒に考えるサポートをします。
- 遊びの途中で、状況に応じて「もうそろそろ仕入れに行かないと、商品がなくなっちゃうよ」「お客さん、並んでるね。少し待ってもらおうか」など、遊びの中の時間や他者との時間調整に関する声かけをします。
- 遊びの終わりに「今日のお店屋さんごっこ、どうだった?どんなことをした?」など、遊びの過程を振り返ることで、時間的な流れや出来事の順序を再確認できるように促します。
制作遊びに見る時間感覚の発達
制作遊びも、時間感覚、特に「見通し」や「計画性」、「時間の長さ」の感覚を育む上で重要です。
単純な素材との出会い・探索(乳児〜2歳頃)
紙を破る、粘土をこねる、絵の具を広げるなど、素材そのものの感触や変化を楽しむ遊びが中心です。目的は明確ではなく、その時々の興味に従って素材を扱います。
- 保育者の関わり方:
- 様々な素材を用意し、子どもが自由に触れて探索できる環境を提供します。
- 子どもの行動を言葉で表現し、素材の性質や変化に関心を向けさせます。「ビリビリって音がするね」「ねんどが柔らかくなったね」など。
具体的な形を作る(3歳頃)
「丸いもの」「長いひも」など、簡単な形や物を作ることを意識し始めます。目的は明確になってきますが、手順や完成までの時間はあまり意識しません。
- 保育者の関わり方:
- 子どもが作ろうとしているものを理解しようとし、「何を作っているの?」「〇〇みたいだね」など、言葉で表現することをサポートします。
- 作りたいものに必要な素材が何かを一緒に考える機会を設けます(「お花を作るなら、どんな色がいいかな?」)。
完成イメージを持って手順を踏む(4歳〜)
完成形をある程度イメージし、そこに向けて必要な材料や手順を考えながら進めるようになります。例えば、紙コップと色画用紙で動物を作る、などです。材料を準備する、切る、貼るといった工程を順序立てて行う経験を通して、時間の流れや手順を意識するようになります。
- 保育者の関わり方:
- 制作を始める前に、「今日はこれを作ってみようか」「どんな材料が必要かな?」など、完成イメージや手順について話し合う機会を設けます。
- 制作の過程で、「次はこれを貼ろうか」「あと少しで完成だね」など、工程や完成までの見通しを持てるような声かけをします。
- 難しい工程がある場合は、一緒に考えたり、具体的な方法を示したりします。
より複雑な制作と時間見積もり(5歳〜)
複数の素材を組み合わせたり、立体的なものを作ったりと、より複雑な制作に挑戦するようになります。完成までの時間や、必要な材料の量、工程にかかる時間などを、経験からある程度見積もることができるようになっていきます。共同制作では、友達と協力して役割分担をしたり、時間を調整したりする経験も加わります。
- 保育者の関わり方:
- 「これ、今日中にできるかな?」「あと〇分で片付けの時間だよ。どこまで進められそう?」など、時間を見積もったり、計画を立てたりする声かけをします。
- 共同制作では、「〇〇さんと協力して作ろうね。〇〇さんはここをお願いできるかな?」「みんなで一緒にここまで終わらせよう」など、集団での時間や役割分担を意識するサポートをします。
- 完成した作品を見て、どのような手順で作ったか、どのくらい時間がかかったかなどを振り返る機会を設けます。
保護者へのアドバイス例
家庭でも遊びを通して時間感覚を育むことができるよう、保護者へ以下のようなアドバイスを検討できます。
- 「遊びの中での声かけ」:
- 「このおもちゃで遊んだら、次はお片付けしようね」
- 「この絵本を読み終わったら、ご飯にしようね」
- 「あと何ページで終わりかな?」
- 「このパズル、完成まであとどのくらいかかりそう?」
- 「一緒に〇〇を作ろう!まずはこれを切って、次にこれを貼ろうね」
- 「遊びの環境づくり」:
- 時間を意識させるために、遊びのコーナーの近くに小さな砂時計を置く。
- 簡単なタイマー(キッチンタイマーなど)を使って、「タイマーが鳴ったら、この遊びはおしまいね」と約束する。
- 片付けの前に「お片付けの歌を歌ったら、おもちゃさんにおうちへ帰ってもらおうね」など、遊びから次の行動への移行を予告する合図を決める。
- 「遊びの振り返り」:
- 「今日作った〇〇、どうやって作ったんだっけ?」「最初に何をしたんだっけ?」など、制作の過程や手順を振り返る。
- 「今日の遊びで一番楽しかったのは?」「それはいつ頃だった?」など、遊びの中での出来事と時間的な感覚を結びつける。
まとめ
子どもの遊びは、単に楽しい時間であるだけでなく、様々な学びの機会に満ちています。特に、遊びが発展し、目的やストーリー、手順を伴うようになるにつれて、子どもたちは見通し、計画、順序、時間調整といった、生きていく上で不可欠な時間感覚を自然と身につけていきます。
保育者は、子どもの遊びの様子を丁寧に観察し、その発達段階に応じた適切な環境構成や声かけを行うことで、子どもたちが遊びを通して豊かな時間感覚を育むことをサポートできます。遊びの発展を促す関わりは、子どもたちの主体性や自己調整力、そして他者と協力する社会性の育ちにも繋がっていくでしょう。