時刻だけじゃない！「〇分」「〇時間」子どもが時間単位を学ぶ保育のヒント
はじめに：なぜ時間の単位（分・時間）の感覚を育むことが大切か
子どもたちが成長するにつれて、「あと〇分で遊ぶ時間はおしまいだよ」「今日の午後の活動は〇時間くらいかな」のように、私たちは具体的な時間の単位を使って伝える機会が増えていきます。しかし、「分」や「時間」といった時間の単位は、子どもにとって非常に抽象的な概念です。時計の針が動く様子や数字の変化を見ても、それが体感としてどれくらいの長さなのかを理解することは容易ではありません。
時間の単位を感覚的に捉える力は、遊びや活動に区切りをつけたり、次の行動への見通しを持ったり、さらには約束の時間を守ろうとしたりする自己調整能力の基礎となります。この能力は、小学校以降の学習や社会生活においても重要になってきます。
本記事では、保育現場において、子どもたちが遊びや日常生活を通して「分」や「時間」といった時間の単位を楽しく、そして感覚的に身につけるための具体的なヒントをご紹介します。
年齢別の発達段階と時間単位の理解
時間の単位に対する理解は、子どもの発達段階によって異なります。
幼児期前期（3〜4歳頃）
この時期の子どもたちは、まだ抽象的な時間の単位を理解することは難しい段階です。「長い時間」「短い時間」といった漠然とした時間の長さを、具体的な活動や体験を通して感じ取ることが中心となります。
- 関わり方のポイント:
- 「この曲が終わるまで」「お片付けの歌が終わったら」など、具体的な出来事や活動と時間を結びつけて伝える。
- 「短い時間でここまでできたね」「これは長い時間かかるね」など、具体的な活動を通して時間の長さを意識させる声かけをする。
- 砂時計やタイマーなどの「見える時間」を示す道具に慣れ親しむ機会を作る。
幼児期後期（5〜6歳頃）
幼児期後期になると、特定の活動を通して時間の単位を意識し始めたり、タイマーの音で時間の終わりを予測したりすることが少しずつできるようになります。時計の文字盤に興味を持つ子も出てきますが、数字と時間単位の正確な対応を理解するのはまだ難しいことが多いです。
- 関わり方のポイント:
- 「あと〇分だよ」「〇分になったらお片付けだよ」など、具体的な時間の単位を使って声かけを始める。
- タイマーや砂時計を使い、「〇分ってこれくらいだよ」と体感と結びつける機会を増やす。
- 一日のスケジュールの中で、活動にかかるおおよその時間を示す（例：「朝の会は15分くらいだよ」「外遊びは30分間しようね」）。
- 絵カードや写真と具体的な時間の単位（数字）を結びつけて提示する。
「分」「時間」を感覚的に学ぶ遊びや活動例
子どもたちが時間の単位を体感し、感覚的に理解するための具体的な遊びや活動のアイデアです。
1. 「〇分チャレンジ」遊び
特定の時間内にどこまでできるか、何ができるかを競う遊びです。
- 具体例:
- 積み木チャレンジ: 「さあ、1分間で積み木をどこまで高く積めるか競争だよ！」
- お絵かきチャレンジ: 「よーいどん！3分間でおばけの絵を描いてみよう！」
- ブロック探し: 「5分間であか色のブロックをいくつ見つけられるかな？」
- ポイント: タイマーや砂時計を子どもに見せながら行い、時間が終わったら音や合図で知らせます。終わった時に「〇分でこんなにたくさんできたね！」と具体的に成果を称賛することで、時間の長さと活動量を結びつけることができます。
2. 砂時計やタイマーを使った活動
「見える時間」を使うことで、時間の流れを視覚的に捉えることができます。
- 具体例:
- 静かに座る時間: 「絵本を読む前の5分間、みんなで静かに座る練習をしようね。この砂時計の砂が全部落ちたら終わりだよ。」
- 集中タイム: 特定の遊び（パズル、製作など）に集中する時間を決め、「このタイマーが鳴るまで頑張ってみよう！」と促します。
- 片付けタイム: 「お片付けの時間だよ！時計の長い針がここの数字に来るまで、みんなで力を合わせて片付けようね。」（数字と時間単位を意識させる）
- ポイント: 使用するタイマーや砂時計は、活動時間に適した長さ（1分、3分、5分、10分など）のものを用意すると良いでしょう。タイマーの数字や砂の減り具合を子どもと一緒に観察することも、時間経過の理解を助けます。
3. 日常生活での声かけの工夫
特別な遊びだけでなく、日々の生活の中で自然に時間単位を意識させる声かけを取り入れます。
- 具体例:
- 「着替え、あと3分で終わらせられるかな？」
- 「歯磨きは、上手に2分間磨こうね。」
- 「この絵本は長いから、読むのに10分くらいかかるかもしれないね。」
- 「お昼ごはんを食べるのに、みんなで20分くらいかかるかな？」
- ポイント: 具体的な行動とセットで時間単位を伝えることが重要です。漠然と「早くしてね」と言うのではなく、「あと〇分で次の活動だよ」と具体的に示すことで、子どもは見通しを持って行動しやすくなります。
4. 絵カードや写真の活用
活動内容と時間の目安を絵カードや写真で示し、時間単位と結びつけます。
- 具体例:
- 一日のスケジュール表に、「外遊び（30分）」や「給食（20分）」のように時間数を併記したカードを貼る。
- 特定の活動（例えば、製作活動）の導入時に、「今日の製作は、このタイマーが鳴るまでの30分間だよ」と、活動内容の絵カードとタイマーを見せる。
- ポイント: 視覚的な情報は、特に幼児期の子どもにとって理解の手助けになります。活動内容と時間の結びつきを繰り返し示すことで、時間単位に対する意識が高まります。
5. 集団活動への応用
クラス全体で時間単位を意識する活動を取り入れることも効果的です。
- 具体例:
- 「今日の自由遊びは、あと15分だよ。タイマーが鳴ったらみんなでお片付けを始めようね。」
- 「みんなでかけっこをしよう！ゴールまで何分かかるかな？先生が時間を計ってみるね。」
- リトミックや体操で、「この動きを1分間続けてみよう！」など、具体的な時間単位を取り入れた指示を出す。
- ポイント: 集団で同じ時間を共有し、同じ合図で活動を終える経験は、社会性や協調性を育むと共に、時間の感覚を共有する学びにもつながります。
保護者への情報提供・連携
ご家庭でも時間単位を意識した声かけや活動を取り入れてもらうために、保護者会や日々の連絡帳などで情報提供を行うことも有効です。
- 伝えるポイント:
- 時間の単位を理解することが、子どもの見通しや自己調整力を育む上で大切であることを伝える。
- 家庭でもできる簡単な声かけの例（例：「歯磨き、2分間頑張ろうね」「この遊び、あと5分したら終わりにしようか」）や、キッチンタイマーの活用などを紹介する。
- 子どもの発達段階に応じて時間感覚の表れ方が異なることを伝え、焦らずに子どものペースで見守ることの大切さを共有する。
まとめ
「分」や「時間」といった時間の単位は、子どもにとってはすぐに理解できるものではありません。しかし、遊びや日常生活における具体的な体験と結びつけ、「見える時間」や保育士の声かけによって繰り返し意識することで、子どもたちは少しずつ時間の長さや単位を感覚的に捉えられるようになります。
焦らず、子どもの発達段階に合わせて、様々な遊びや活動の中で楽しく時間を意識する機会を提供することが重要です。今回ご紹介したヒントが、保育現場での実践の一助となれば幸いです。子どもたちが時間と上手に付き合い、自ら見通しを持って行動する力を育んでいけるよう、温かくサポートしていきましょう。