時間感覚が育む「自分でできた！」の力：自己調整と主体性を支える保育
子どもたちが日々の活動の中で「自分でできた！」という達成感を味わうことは、自己肯定感を育み、次の挑戦への意欲へとつながる大切な経験です。このような経験を重ねるためには、「自分で考えて行動を調整する力」、すなわち自己調整力が不可欠となります。そして、この自己調整力を育む上で、時間感覚は非常に重要な役割を果たします。
自己調整力とは何か
自己調整力とは、自分の感情や思考、行動をコントロールし、目標達成に向けて調整する力のことです。保育における自己調整力は、例えば以下のような形で現れます。
- 自分の気持ちを落ち着ける
- 目の前の誘惑に耐える
- 遊びを切り上げて次の活動に移る準備をする
- 活動に必要なものを自分で判断して準備する
- 時間を意識して計画通りに進める、あるいは計画を修正する
これらの力は、集団生活での協調性や、将来の学習、社会生活において不可欠な基盤となります。
時間感覚が自己調整力を支える仕組み
時間感覚は、子どもが自己調整力を発揮するための重要な要素です。具体的には、時間感覚は以下のような面で自己調整を助けます。
- 見通しを持つ: 「あと〇分でこの遊びは終わり」「これが終わったら次は〇〇」といった時間的な見通しがあることで、子どもは自分の行動を計画したり、次の活動への心の準備をしたりすることができます。これは、活動の切り替えをスムーズに行う上で不可欠な自己調整です。
- 時間の長さを理解する: ある活動にどのくらいの時間がかかるかを体感的に理解することで、子どもは自分のペースを調整したり、活動を時間内に終えるための段取りを考えたりできるようになります。例えば、「この制作は少し時間がかかるから、早めに始めよう」と自分で判断できるようになるのも、時間の長さの理解に基づいています。
- 時間の重要性を認識する: 「みんなで一緒に始める時間」「約束の時間」など、時間に関するルールや社会的な取り決めを理解することで、子どもは自分の行動を他者との協調や集団のリズムに合わせて調整することを学びます。
このように、時間感覚は子どもが主体的に行動を計画し、状況に応じて調整する自己調整力の基盤となります。
保育現場で時間感覚を通して自己調整力・主体性を育むヒント
時間感覚を育むことは、そのまま自己調整力や主体性を育むことにつながります。保育現場で実践できる具体的なアプローチをご紹介します。
1. 日常生活の中での「見える化」と声かけ
- 一日の流れを「見える化」: 登園から降園までの活動内容を絵や写真で壁に貼るなどして、子どもたちがいつでも見られるようにします。「今は〇〇の時間だね」「この次は何かな？」と声かけ、自然と時間的な見通しを持つ習慣を促します。
- 活動の始まりと終わりを明確に: 「〇〇の時間だよ、始めよう」「片付けの時間だよ、おもちゃをお家に戻そうね」など、始まりと終わりの合図や声かけを一定にします。タイマーや砂時計を活用し、「これが全部落ちるまでね」など、終わりの時間を視覚的に伝えることも有効です。
- 活動時間の意識付け: 「この遊びはあと〇分にしようね」「この絵本は少し長いよ」など、活動にかかる時間について簡単な言葉で伝えます。タイマーが鳴る前に「あと少しで終わりの時間だよ」と予告する声かけも、子どもが自分で遊びを調整するきっかけになります。
2. 遊びの中での時間感覚の体感と自己調整
- 時間を決めた遊び: 「このパズルは10分でどこまでできるかな？」「お砂場で時計の針がここまで来るまで遊ぼうね」など、時間を設定した遊びを取り入れます。タイマーを使うことで、時間の流れを客観的に捉える経験ができます。
- 時間内で役割を果たす: ごっこ遊びで「ご飯を作る時間だよ」「お店を開ける時間だよ」など、時間と結びついた役割を設定します。集団での役割遊びの中で、自分の行動を時間に合わせて調整する必要性を体感します。
- 制作活動での時間管理: 「今日の制作は〇時までだよ」と伝え、子ども自身が工程やペースを考えるように促します。時間内に終わらなかった場合でも、「どうすれば時間内にできたかな？」と一緒に振り返ることで、次への見通しや計画性を養います。
3. 年齢別の関わり方のポイント
- 乳児（0～2歳児）: この時期は、安定した生活リズムの中で時間の感覚の基礎を育みます。授乳やおむつ替え、睡眠、遊びなどの時間をほぼ一定に保ち、安心できる繰り返しの中で次に何が起こるかの予測（見通し）を育みます。「いないいないばあ、もうすぐ出てくるよ」など、短い時間での「待つ」経験も大切です。
- 幼児（3歳児）: 一日の流れを簡単な言葉や絵で伝え始めます。活動の切り替え時には、「そろそろお片付けの時間だよ」「これが終わったら手洗いに行こうね」など具体的に声かけし、見通しを持って自分で行動を調整する経験を促します。遊びの中で「あと〇分」を伝えることも有効です。
- 幼児（4～5歳児）: 活動時間の目安を伝え、子ども自身がどのくらい時間をかけるか考えたり、時間内に終わるように工夫したりすることを促します。遊びの計画を立てる際に「この遊びはどのくらいの時間やりたい？」と問いかけたり、片付け時間を意識させたりすることで、より主体的な時間管理へとつなげます。集団での活動では、みんなで協力して時間を意識する経験を取り入れます。
4. 保護者へのアドバイス例
園での取り組みを共有し、家庭でも時間感覚を育むことの重要性をお伝えします。
- 「ご家庭でも、朝起きてから家を出るまで、夜寝る前の準備など、おおまかな時間を決めて過ごすことで、お子様は一日の流れや時間の感覚を自然と身につけていきます。」
- 「遊びの終わりや、次に行うことについて、お子様に『あと〇分だよ』『これが終わったらお風呂だよ』などと具体的に伝えてみてください。自分で気持ちを切り替えたり、行動を調整したりする練習になります。」
- 「絵本の読み聞かせや、砂遊びなど、お子様が時間を忘れて夢中になる経験も大切です。同時に、次の予定を伝える際には、絵カードやタイマーなどを活用するのも良い方法です。」
まとめ
時間感覚は、子どもが自分の力で考え、行動を調整する自己調整力、そして主体性を育むための大切な土台です。保育現場では、日常生活の見通しを分かりやすく伝えたり、遊びの中で時間を意識する経験を取り入れたり、年齢に応じた声かけを工夫したりすることで、子どもたちの時間感覚を豊かに育むことができます。
保育士の皆様が、これらのヒントを参考に、子どもたちが「自分でできた！」という喜びを通して、未来を生き抜くための大切な力を育んでいくことを願っております。