家庭との連携で子どもの時間感覚を育む:保護者へのアドバイスと園での実践
なぜ家庭と園での連携が時間感覚の育成に重要なのか
子どもの時間感覚は、日々の生活や遊びの中で少しずつ育まれていきます。園での集団生活を通して時間の流れやルールを学ぶ一方で、家庭での過ごし方もまた、子どもたちの時間に対する認識形成に大きな影響を与えています。
園と家庭で時間に対する関わり方や声かけに一貫性があることは、子どもが混乱なく時間感覚を身につける上で非常に重要です。例えば、園で「〇時になったらお片付け」と伝えていても、家庭で時間のルールが曖昧だったり、「早くしなさい」といった否定的な声かけが多かったりすると、子どもは時間を守ることに対して苦手意識を持ったり、時間の必要性を理解しにくくなったりする可能性があります。
このため、保育士が保護者と連携し、互いの取り組みを共有したり、家庭での実践について具体的なアドバイスを行ったりすることは、子どもの時間感覚をより効果的に育むために不可欠であると言えます。保護者自身も子どもの時間に関する困りごとを抱えていることが多く、園からの具体的なヒントは非常に役立ちます。
保護者への具体的なアドバイス例
保護者への情報提供や個別相談の際に、家庭で実践できる時間感覚を育むヒントを伝えることができます。以下にいくつかの例を挙げます。
1. 生活ルーティンを大切にする
「毎日同じ時間に食事をする」「寝る前に絵本を読む」など、時間を決めた繰り返し行う活動(ルーティン)は、子どもが生活の流れを理解し、時間の見通しを持つ基礎となります。
- 伝え方例:
- 「園でもお昼ごはんやおやつの時間は決まっていますね。お家でも、例えば朝起きたら顔を洗う、寝る前には歯を磨くといった小さなことから、毎日同じ流れで過ごすことを意識すると、お子さんは安心して一日を過ごせ、次への見通しがつきやすくなりますよ。」
- 「週末なども、全くバラバラではなく、平日と大きくずれない範囲でルーティンを保つことが、生活リズムを整え、結果的に時間の感覚を育む手助けになります。」
2. 具体的な言葉で時間を伝える
子どもは抽象的な「早く」「後で」よりも、具体的な言葉や行動と結びつけることで時間を理解しやすくなります。
- 伝え方例:
- 「『あとでね』と言う代わりに、『〇〇が終わったら(ご飯を食べ終わったら)お外に行こうね』とか、『長い針が上(12)に来たらお片付けの時間だよ』のように、具体的な活動や目印を使って伝えてみましょう。」
- 「『あと〇回ブランコしたら終わりね』のように、遊びの中で回数を区切るのも、終わりの見通しを持つ練習になります。」
3. 「見える時間」を取り入れる
園で砂時計やタイマー、絵カードを使っていることを伝え、家庭でも取り入れられることを提案します。
- 伝え方例:
- 「園ではお片付けの時間に砂時計を使っていますが、お家でも歯磨きやゲームの時間に砂時計やキッチンタイマーを使うと、お子さんにとって時間が『見える化』されて、終わりが分かりやすくなります。」
- 「一日の流れを、簡単な絵や写真のカードを並べて示すことも有効です。『起きたらごはん、そのあと着替え』のように目で見える形にすると、次に何をするか見通しを持って行動しやすくなります。」
4. 時間に対する肯定的な声かけを意識する
時間を守れなかった時に叱るだけでなく、時間を意識できたことや、少しでも頑張った過程を褒めることが大切です。
- 伝え方例:
- 「朝の準備が遅くてつい『早くしなさい!』と言ってしまうことはありますね。でも、できた時に『今日は〇〇を時間までに準備できたね!すごいね!』と具体的に褒めることで、お子さんは時間を意識することに前向きになれます。」
- 「『あと5分で終わりだよ』と伝えた時に、すぐにやめられなくても、『あと5分で終わるって分かったんだね』と声かけをするだけでも、お子さんは時間に関心を持つようになります。」
5. 保護者の悩みに寄り添う
朝の支度が進まない、片付けをしないなど、保護者が抱える具体的な悩みについて丁寧に話を聞き、園での様子や他の子の例なども交えながら、一緒に解決策を考える姿勢を示すことが信頼関係を築く上で重要です。
- 「朝のご準備、大変ですよね。園でも、着替えに時間がかかるお子さんには、前日に服を選ぶように促したり、着替え終わったらシールを貼るカレンダーを使ったりしています。お家ではいかがでしょうか?」
- 「片付けの合図を工夫してみるのはいかがでしょうか。楽しい音楽をかけたり、『おもちゃさんのお家にご飯だよー』と声かけたりするのも一つの方法です。」
園での実践と家庭への情報共有
園で実践している時間に関する取り組みを、保護者に分かりやすく伝えることも連携の一環です。
1. 園でのルーティンや時間の伝え方を共有する
- おたよりやクラスだよりで、一日の流れ(朝の支度、自由遊び、活動、給食、降園準備など)を紹介します。それぞれの時間帯でどのような声かけをしているか、タイマーや砂時計をどのように使っているかなども具体的に記述すると、保護者は家庭での参考にしやすくなります。
- 保育参観や懇談会などで、実際の時間の区切り方や活動の移行の様子を見てもらう機会を設けることも有効です。
2. 保護者向けの具体的な情報提供
- 時間感覚の発達段階について解説した簡単な資料を作成し、配布します。「この時期には〇〇が理解できるようになります」「まずは〇〇から働きかけてみましょう」といった具体的な内容が含まれていると、保護者は見通しを持って関わることができます。
- 時間に関する絵本や、家庭でできる簡単な遊び(例: 「〇分間、新聞紙の上に乗っていられるかな?」など時間の長さを体感する遊び)を紹介リストとして共有することも喜ばれます。
3. 個別懇談での具体的な話し合い
- 子どもの園での時間に関する様子(活動移行のスムーズさ、時間を意識した行動など)を具体的に伝えます。
- 保護者から家庭での困りごとを聞き、園での対応(例: 〇〇君は、この声かけ方をするとスムーズです)や家庭で試せるアイデア(例: 目覚まし時計をお子さんに選ばせてみるのはいかがでしょう)を具体的に提案します。
まとめ
子どもの時間感覚を育む過程は、一朝一夕に達成されるものではありません。園での意図的な働きかけに加え、家庭での日々の関わりが組み合わさることで、子どもは時間を意識し、見通しを持って行動する力をより効果的に身につけていきます。
保育士の皆様が保護者と積極的にコミュニケーションを取り、園での取り組みを伝えたり、家庭での実践について具体的にアドバイスを行ったりすることで、保護者も安心して子どもの時間感覚育成に関わることができます。共に子どもたちの成長を支えるパートナーとして、家庭と園が連携していくことの重要性を改めて共有し、実践に繋げていきましょう。