季節の移り変わりと行事で学ぶ:子どもが自然に時間を感じる保育のヒント
はじめに:子どもたちの「今」と「時の流れ」をつなぐ
子どもにとっての時間感覚は、大人とは異なり、抽象的な概念として捉えることは難しいものです。特に乳幼児期は、「今、この瞬間」に集中し、過去や未来といった時間の流れを意識することはほとんどありません。しかし、成長と共に、生活の中での繰り返しや変化を通して、徐々に時間の感覚を身につけていきます。
この過程において、季節の移り変わりや年間行事は、子どもたちが自然な形で「時の流れ」を肌で感じ、具体的な出来事と結びつけて時間を理解するための素晴らしい機会となります。春の暖かさ、夏の太陽、秋の葉の色、冬の冷たい空気。そして、こどもの日、七夕、運動会、発表会、クリスマス、お正月といった行事は、子どもたちにとって強く印象に残る出来事であり、「去年の運動会」「次の発表会」といった過去や未来を意識するきっかけとなります。
この記事では、季節や行事を活用して、子どもたちが楽しく自然に時間感覚を育むための具体的な保育のヒントやアイデアをご紹介します。
なぜ季節・行事が時間感覚の育成に役立つのか
季節の移り変わりと行事は、時間の感覚を育む上で以下のような利点があります。
- 具体的な変化と関連付けられる: 抽象的な時間概念(○分、△時間)ではなく、「葉っぱの色が変わった」「サンタさんが来る日」といった具体的な変化や出来事と時間を結びつけて理解できます。
- 周期性と規則性を感じられる: 季節が巡り、行事が毎年繰り返されることを通して、時間の周期性や規則性を無意識のうちに感じ取ることができます。
- 過去・現在・未来を意識するきっかけとなる: 「去年の七夕は浴衣を着たね」「次の運動会ではダンスをするよ」といった会話や活動を通して、過去の経験を思い出し、未来への期待を持つことができます。
- 五感を通して体験できる: 気温、景色、植物、食べ物、行事の雰囲気など、五感を通して季節や行事を感じることで、時間の流れがより鮮明な体験として記憶されます。
年齢別の関わり方と具体的なヒント
子どもの時間感覚の発達段階に合わせて、季節や行事への関わり方も変化させていきましょう。
乳児クラス(0~2歳児)
この時期の子どもたちは「今」を生きており、過去や未来の概念はまだありません。しかし、繰り返しや五感を通した体験は、後の時間感覚の基礎となります。
- 五感で季節を感じる:
- 散歩で季節の自然物(花、葉っぱ、雪など)に触れる、見る、匂いを嗅ぐ。
- 旬の食材を使った離乳食やおやつを提供する。
- 季節に合わせた歌や手遊びを楽しむ(例:「チューリップ」「たなばたさま」など)。
- 行事の雰囲気を楽しむ:
- 行事に関連する飾り付けを部屋に施し、視覚的な変化を楽しむ。
- 行事の雰囲気を感じられる音楽を流す。
- 無理のない範囲で、行事の簡単な活動に参加する(例:七夕の笹飾りを見る、豆まきの鬼のお面を見るなど)。
- 声かけの例:
- 「お外、あったかいね。春が来たかな?」「冷たいね、雪だよ」「きれいな葉っぱだね、秋だね」
- 「今日の給食は、夏においしいトマトさんだよ」
- 「ほら、きれいな飾りだね。もうすぐ〇〇(行事名)だよ」
幼児クラス(3~5歳児)
具体的な出来事と時間を結びつけ始め、過去や未来への意識が芽生えてきます。繰り返し経験することで、季節や行事の周期性を理解できるようになります。
- 季節の移り変わりを意識する活動:
- 園庭や公園の木や植物の観察を定期的に行う。「前は葉っぱがなかったのに、出てきたね」「緑だった葉っぱが赤くなったね」
- 季節の制作活動(春は花、夏は虫、秋は落ち葉、冬は雪だるまなど)。「この前作った雪だるまさんは、冬の時に作ったね」
- 旬の食材を使ったクッキング保育や食育活動。「このお芋は秋に掘ったんだよ」
- 行事の準備と振り返り:
- 行事の意味や由来を簡単な言葉で伝える絵本の読み聞かせや紙芝居。
- 行事の準備過程(飾り付け、練習、衣装作りなど)に子どもたちが主体的に関わる。「こどもの日は鯉のぼりを飾るんだね、一緒に作ろう」「発表会まであと〇日、練習頑張ろうね」
- 行事の後の振り返り。写真やビデオを見ながら「〇〇くんのダンス、かっこよかったね!これはいつだったかな?」「去年の運動会、楽しかったね」
- カレンダーや写真の活用:
- クラスで大きな年間カレンダーを作成し、季節の絵を描き込んだり、行事の日をマークしたりする。「この赤い丸の日は運動会だよ。あといくつ寝ると来るかな?」
- 季節ごと、行事ごとの写真を掲示したり、アルバムにまとめたりする。「これが去年のクリスマスの時の〇〇ちゃん」
- 集団での工夫:
- 季節ごとの壁面制作を子どもたちの作品でリレーしていく。
- 「〇月になったら△△の行事があるよ」といった見通しを定期的に伝える。
- 声かけの例:
- 「もうすぐ冬休みだね。冬休みが終わったら、みんなで△△を作ろうね」
- 「去年のお遊戯会、楽しかったね。今年も楽しいことを考えようね」
- 「七夕は夏のお祭りだよ。織姫さまと彦星さまがお空で会える日だよ」
保護者へのアドバイス例
家庭でも季節や行事を通して時間感覚を意識できるよう、保護者へ情報提供することも有効です。
- 季節の変化を子どもと一緒に探す(散歩、旬の食べ物など)。
- 家庭の年間行事(誕生日、家族旅行など)を子どもに話す。
- カレンダーを活用し、特別な日を一緒に確認する。
- 過去の行事や家族のイベントの写真を見返す。
まとめ
季節の移り変わりや年間行事は、子どもたちが時間の流れを具体的な体験を通して学び、過去・現在・未来という時間軸を意識し始めるための大切な機会です。保育現場では、五感を使った体験、行事への主体的な関わり、そしてカレンダーや写真といった視覚的な補助を活用することで、子どもたちが楽しく自然に時間感覚を育むことができます。これらの実践は、子どもたちの見通しを持つ力や、生活のリズムを整えることにも繋がるでしょう。日々の保育の中で、季節や行事の力を借りて、子どもたちの豊かな時間感覚を育んでいきましょう。