「これから」っていつ?:遊びや生活で育む少し先の未来への時間感覚
子どもたちが日々の生活や遊びを通して時間の感覚を身につけることは、成長において非常に重要です。特に「これから」という言葉は、子どもたちにとって、まだ経験していない少し先の未来を指し示す大切な手掛かりとなります。この言葉を通して未来への見通しを持つ力は、安心感や期待感を育み、主体的な活動への一歩につながります。
本記事では、「これから」という時間表現を子どもたちが理解し、少し先の未来への時間感覚を育むための具体的な保育のヒントや遊びのアイデアをご紹介します。
子どもにとっての「これから」とは?
乳幼児期の子どもたちにとって、時間は非常に抽象的な概念です。「いま」「ここ」の世界が中心であり、「きのう」や「あした」、「あとで」といった時間軸の言葉を理解するには段階的な経験が必要です。
「これから」という言葉も同様に、最初は具体的な行動や出来事と結びつけて理解していきます。「これからお散歩に行くよ」「これからご飯の時間だよ」といったように、直後に起こる具体的な出来事を指す言葉として認識し始めます。
年齢が上がるにつれて、「今日の午後は〇〇の遊びをしようね」「来週は遠足だよ」といった、少し先の未来や、具体的な計画を指す言葉としても理解が深まっていきます。この「これから」が指す時間の幅は、子どもの認知発達とともに広がっていきます。
年齢別の「これから」への関わり方
0~1歳児クラス
この時期は、まだ言葉による時間理解は難しい段階です。「これから」という言葉を使いつつも、具体的な行動と結びつけて示すことが重要です。
- 声かけと行動のセット: 「これからおむつを替えるよ」「これからミルクの時間だよ」と優しく声をかけながら、実際に行動に移します。声と行動をセットにすることで、「これから」の次に何が起こるかを体感として学びます。
- 繰り返し: 毎日同じ時間に同じ活動を行うことで、生活リズムの中に時間の流れを感じ取ります。「朝起きたらミルク、そのあとお着替え」といった繰り返しのリズムが、「これから」への見通しの基礎となります。
2歳児クラス
具体的な言葉と出来事を結びつけ始める時期です。「これから」の後に起こることを視覚的に示すことも効果的です。
- 絵カードや写真: 一日の流れや、これから行う活動を絵カードや写真で示しながら、「これから〇〇の絵本を読むよ」と伝えます。次に何が起こるかを目で見せることで、見通しを持ちやすくなります。
- 短い時間の「これから」: 「これから積木で遊ぼうか」「これから手を洗おうね」など、活動と活動の間の短い時間で「これから」を使います。直後に起こる具体的な行動と結びつけることで、言葉の意味をより明確に理解します。
3~5歳児クラス
少し先の未来や、具体的な計画、集団での活動において「これから」を活用できるようになります。見通しを持つことの楽しさや大切さを伝えていきます。
- 一日の見通し: 朝の会などで、今日これから行う活動について具体的に話します。「午前中はこれからお部屋で遊んで、そのあと園庭で体操をします」「午後は粘土遊びをして、おやつの時間になりますよ」など、絵や文字で示しながら話すと、見通しを持ちやすくなります。
- 遊びの中での計画: 遊びの中で「これから何を作ろうか?」「これからどこに行こうか?」と一緒に計画を立てる機会を設けます。遊びを通して「これから」を考える楽しさを経験します。
- 集団での「これから」: 「これからみんなで手遊びをするよ」「これから順番に滑り台を滑ろうね」など、集団での活動における「これから」を意識させます。みんなで一緒に次の活動へ向かう意識を育てます。
- 少し先の「これから」: 「来週の〇曜日には〇〇があるよ」「季節が変わったら〇〇の行事があるね」など、週単位や月単位の「これから」にも触れていきます。具体的な予定や行事と結びつけることで、未来への関心を高めます。
遊びや日常生活で「これから」を育む具体的なヒント
遊びの例
- 「これから何をする?」「これからどこへ行く?」ごっこ遊び:
- 役割になりきって「これからお買いものに行くところです」「これから宇宙船に乗ります」など、遊びの中で未来の行動を言葉にします。
- ごっこ遊びの展開を「これから〇〇が起こるかもしれないね」と話し合いながら進めることで、ストーリーの先を見通す楽しさを経験します。
- クッキング遊びや製作遊び:
- 活動の最初に「これからクッキーを作るよ」「これから〇〇の絵を描くよ」と目的を共有します。
- 途中で「これから生地を混ぜます」「これから色を塗ります」など、工程ごとに「これから」を使います。完成という未来の目標に向かって段階を踏む経験を積みます。
- 宝探しゲーム:
- 次のヒントを渡す際に「これから、砂場に行って探してみてね」と伝えます。一連のステップを通して、未来の行動を予測しながら進む楽しさを体験します。
日常生活での声かけの例
- 「これから、お片付けをしたら、おやつの時間だよ。」(片付けとおやつという具体的な出来事と結びつける)
- 「朝ごはんを食べて、これから歯磨きをしようね。」(一日の流れの中で次の行動を示す)
- 「今日は雨だから、これからお部屋で過ごしましょう。」(状況の変化に応じた未来の行動を示す)
- 「お母さんがお迎えに来たら、これからお家に帰るんだね。」(保護者との連携も意識し、家庭での未来の出来事にも触れる)
「これから」への見通しが育む力
「これから」という言葉を通して未来への見通しを持つ経験は、子どもたちの様々な力を育みます。
- 安心感: 次に何が起こるかが分かると、子どもは安心できます。特に活動の切り替えや新しい環境に戸惑う子にとって、「これから〇〇だよ」という声かけは、不安を軽減する手助けになります。
- 期待感: 楽しみにしている活動を「これから〇〇だよ!」と伝えることで、未来への期待感やワクワクする気持ちを育てます。
- 主体性: 「これから何をする?」と問いかけることで、自分で未来の行動を考え、選択する機会を提供できます。これは主体性や自己決定力の基礎となります。
- 計画性: 少し先の活動や目標を意識することは、物事を順序立てて考え、準備をする力(計画性)の土台を築きます。
- 時間感覚の深化: 「これから」という言葉が指す時間の幅を経験する中で、子どもたちは未来という抽象的な時間の流れを少しずつ理解していきます。
保護者へのアドバイス例
園での取り組みと並行して、家庭でも「これから」を意識した声かけをしてもらうよう保護者へ伝えていくことも大切です。
- 「今日、園で『これから〇〇をしたんだよ』と教えてくれましたよ。お家でも、お出かけの前に『これから靴を履こうね』『これから公園に行こうね』のように、短い時間でも『これから』の言葉と行動をセットにして話しかけてみてください。」
- 「週末の予定など、少し先の楽しみなことを『これからの土曜日には〇〇があるね!』などと具体的に話してあげると、お子さんの未来への見通しや期待感が育まれます。」
まとめ
「これから」という言葉は、子どもたちにとって少し先の未来と現在の自分を結びつける大切な架け橋となります。この言葉を遊びや日常生活の中に意図的に取り入れ、具体的な行動や出来事と結びつけて示すことで、子どもたちは未来への見通しを持つ力を育んでいきます。
未来を見通す力は、子どもに安心感や期待感を与え、主体的な活動への意欲を引き出すとともに、時間感覚の確かな土台となります。年齢に応じた関わり方や、絵カードなどの視覚的な支援も活用しながら、子どもたちが楽しく「これから」を感じ取れるような保育を実践していきましょう。