「もうすぐ」を心待ちに:未来への期待が育む子どもの時間感覚
子どもにとって、遠足や誕生日、クリスマスといった未来の特別なイベントは、日々の生活に彩りを与え、心躍るものです。こうした「心待ちにする」気持ちは、単に楽しいだけでなく、子どもの時間感覚や見通しを持つ力の発達に深く関わっています。
抽象的な時間を理解することが難しい子どもは、具体的な出来事を通して時間の流れを捉えていきます。特に、楽しみにしている未来の出来事は、「まだかな?」「あとどれくらい?」といった疑問を生み、自然と時間や期日を意識するきっかけとなります。この期待感は、待つことの意義を理解したり、その日までの期間を感覚的に捉えようとしたりする意欲につながります。
本記事では、未来への期待感を活用して、子どもの時間感覚を育むための保育現場での具体的なアプローチについてご紹介します。
未来への期待が時間感覚の発達に与える影響
子どもは、過去・現在・未来といった時間軸を大人と同じようには理解していません。しかし、楽しみにしているイベントに向けてカウントダウンをしたり、「あと〇回寝たら遠足だよ」といった声かけを聞いたりすることで、未来の出来事までの時間的な距離を少しずつ感じ取るようになります。
この経験を通して、子どもは以下のような時間感覚や関連する力を育んでいきます。
- 未来への見通しを持つ力: 特定の日や出来事を意識することで、「その日までにはこれをする」「その日にはあれがある」といった未来への見通しを持つ練習になります。
- 待つ力と自己調整力: 楽しみにしている気持ちがあるからこそ、「待つ」という行為に意味を見出しやすくなります。また、その日のために準備をしたり、我慢したりといった自己調整の経験にもつながります。
- 時間単位への興味: 「あと〇日」「あと〇週間」といった具体的な期間を示す言葉や、カレンダーの仕組みなどに興味を持つきっかけになります。
- 時間の相対的な感覚: 楽しみにしている時間は長く感じたり、あっという間に過ぎたと感じたりする経験を通して、時間の長さが主観的なものもあることを感覚的に理解し始めます。
保育現場で実践できる具体的なヒント
子どもたちの未来への期待感を、時間感覚を育む学びへとつなげるためには、日々の保育の中で意図的な関わりを持つことが重要です。
1. イベントと時間を結びつける声かけ
特定のイベントが近づいてきたら、「もうすぐ〇〇の日だね」「あと〇日だよ」といった具体的な声かけを意識的に行います。
- 「来週の月曜日は遠足だよ。あと〇回土日を挟むかな?」
- 「次の誕生日まで、あと〇ヶ月だね。背はどれくらい伸びるかな?」
- 「クリスマスの日にはサンタさんが来てくれるね。カレンダーを見てみようか。」
このような声かけは、抽象的な「未来」を具体的な「〇日後」「〇ヶ月後」として捉える手助けになります。
2. 見える形で時間を示すツールの活用
カレンダーや手作りのカウントダウンツールは、未来までの時間を「見える化」するのに非常に有効です。
- カレンダー: クラスに大きなカレンダーを掲示し、楽しみにしているイベントの日付に印をつけます。毎日、その日の日付にシールを貼ったり、線を引いたりすることで、子どもたちは一日が過ぎたこと、そしてイベントの日が近づいていることを視覚的に理解できます。
- カウントダウンカレンダー/チェッカー: イベントまでの日数をマス目にしたり、紐に吊るした数え棒を使ったりして、子どもたちが自分で減らしていけるようにします。「あと〇個減らせば(あるいは進めば)、〇〇の日だ!」といった達成感が、時間への意識を高めます。
- 絵カードや写真: イベントの様子を写した写真や、イベントに関連する絵カードを使い、「このイベントはいつ頃かな?」と一緒に考えたり、順番に並べてみたりする活動も効果的です。
3. イベントに向けた準備活動
楽しみにしているイベントに向けた準備の過程も、時間感覚を育む良い機会です。
- 共同制作: 遠足で使うリュックの飾りを作ったり、発表会で使う小道具を作ったりする活動を通して、「これを完成させたら、いよいよ本番だね」と、準備の進捗と期日を結びつけます。
- 練習: 運動会のダンスや発表会の歌の練習を繰り返す中で、「前よりも上手になったね!本番が楽しみだね」と、練習の積み重ねが未来の成果につながることを示唆します。練習回数や期間を示すことも、時間意識の醸成につながります。
- 話し合い: イベントで何をするか、どんなルールがあるかなどを子どもたちと話し合う中で、「当日までに決めておこうね」「〇日までに準備しておこうね」と、期日を意識する経験を取り入れます。
4. 年齢別のヒント
子どもの発達段階に応じて、未来への期待を活用する方法は異なります。
- 乳児クラス(0-2歳児): まだ数日、数週間といったスパンの未来を理解することは難しい段階です。「お母さんがもうすぐ来るかな?」「お外に行く時間だよ」など、より短いスパンの「もうすぐ」や、繰り返される日課の中での次の活動への期待感を大切に関わります。「お昼ご飯の音が聞こえるね、もうすぐだよ」など、感覚的なサインと結びつけるのも効果的です。
- 幼児クラス(3-5歳児): 遠足、誕生日、季節の行事など、少し先の未来のイベントを具体的な目標として設定しやすくなります。カレンダーやカウントダウンツールを積極的に活用し、子ども自身が残り日数を意識できるように促します。イベントまでの準備過程に子どもが主体的に関わることで、時間管理の感覚も芽生えます。
5. 保護者との連携
家庭と園で連携して、子どもの未来への期待感を共有し、時間感覚を育むアプローチを行うことが効果的です。
- 園での取り組みの共有: クラスで作ったカウントダウンカレンダーや、イベントに向けた準備の様子などを写真や連絡帳で保護者に共有します。「ご家庭でも、ぜひ〇〇のお話をしてみてください」「あと〇日と数えています」といった形で、家庭でも話題にしてもらうよう促します。
- 家庭でのイベント活用アドバイス: 家庭での誕生日や家族旅行なども、子どもにとって時間感覚を育む良い機会であることを伝えます。「お家でも、カレンダーに印をつけてみたり、『あと〇回寝たら行こうね』と話してみたりするのも良いですよ」といった具体的なアドバイスを提供します。
まとめ
子どもが未来のイベントを心待ちにする気持ちは、時間感覚や見通しを持つ力、そして待つ力といった、生きていく上で大切な力を育む原動力となります。保育者は、この自然な期待感を捉え、カレンダーや具体的な声かけ、そしてイベントに向けた活動を通して、子どもが未来までの時間的な距離を感覚的に理解し、見通しを持つ経験を意図的に提供することができます。
未来への期待感を共有し、ともにその日を心待ちにする過程は、子どもにとって時間と自分自身の成長を結びつける貴重な学びとなります。日々の保育の中で、ぜひ子どもたちの「もうすぐ」という心の声に耳を傾け、楽しみながら時間感覚を育むサポートを行ってください。