活動の「順番」で体感する時間の流れ:見通しと時間の感覚を育む保育のヒント
はじめに
子どもたちが時間の感覚を身につける上で、抽象的な「〇時〇分」といった概念の理解は発達の後期の課題となります。それよりも前の段階では、身近な出来事の連続性や順序を通して、時間の流れを体感することが重要です。特に保育現場での活動は、常に始まりから終わりへと流れていきます。この「活動の順番」を意識することで、子どもたちは自然と時間の流れを感じ取ることができます。本記事では、遊びや日常生活の様々な場面で、活動の順番を通して子どもの見通しや時間感覚を育むための具体的なヒントをご紹介します。
「順番」が時間の流れを体感させる理由
乳幼児期の子どもにとって、時間は目に見えない抽象的なものです。しかし、「これをしたら次は何をする」という具体的な活動の順番は、繰り返しの中で予測可能なものとして認識されやすくなります。例えば、絵本を「めくる」と次のページに「進む」、積み木を「積む」と「高くなる」、といった順序に伴う変化は、出来事の連続性や一方向性を子どもに伝えます。
この「順序性」の理解は、やがて「朝が来て、お昼になり、夜になる」といった一日の時間の流れや、「春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来る」といった季節の移り変わりの理解につながる基礎となります。「〇〇の次」という経験が、「過去」「現在」「未来」といった時間軸の概念を育む上での大切なステップとなるのです。
活動の順番を通して時間の感覚を育む具体的なヒント
保育現場では、日々の様々な活動の中に「順番」を意識させる機会が豊富にあります。
1. 日常生活のルーティンを明確な順番で
着替え、手洗い、食事の準備、片付けなど、繰り返される日常のルーティンは、時間の感覚を育む絶好の機会です。
- 声かけの工夫: 「ズボンをはいたら、次はTシャツだよ」「手を洗って、次はタオルで拭こうね」「おもちゃを箱に入れたら、次はお絵かきにしようか」など、具体的な行動の「次」を予告する声かけを行います。
- 絵カードや写真の活用: 一連の行動を絵カードや写真で示し、完了したら次のカードに進むようにします。「着替える」「手を洗う」「食べる」などのステップを視覚的に示すことで、子どもは次に何をすれば良いかを見通しやすくなり、活動の順序を理解しやすくなります。
- 歌や手遊び: 手洗いの歌や着替えの歌など、順番に沿った動きのある歌を取り入れることで、楽しみながら順番を覚えることができます。
2. 製作活動での工程を意識させる
製作活動は、材料を準備し、手順に沿って進め、作品が完成するという明確な工程(順番)があります。
- 工程の事前共有: 活動の前に、「今日はまず〇〇を切って、次に△△をのりで貼って、最後に自由に絵を描こうね」など、大まかな流れを言葉や絵で示します。
- 「次は何をする時間?」と問いかける: 活動の途中で、「さあ、折り紙が折れたね。次はどうする時間だったかな?」と問いかけ、子ども自身に次の工程を思い出してもらうように促します。
- 完成までの道のりを視覚的に示す: 完成見本や、途中段階の作品を示しながら、「ここまで来たら、あと少しで完成だね!」などと声かけをします。
3. 遊びの中での「順番」
特定の遊びの中にも、順番を意識する要素を取り入れることができます。
- リレー形式の遊び: 一人ずつ順番に走る、ボールを渡すなどのリレー形式の遊びは、自分の番が来るのを待つ、自分の番が終わったら次の人にパスするという明確な順番があります。
- 簡単なボードゲームやカードゲーム: じゃんけんをして順番を決める、サイコロを振ってコマを進めるなど、順番を守って遊ぶ経験は、ルールを守る力だけでなく、時間的な順序の理解にもつながります。
- 積み木やブロックの共同制作: 「〇〇くんが積んだ上に、△△ちゃんがブロックを乗せる」など、みんなで協力して順番に何かを作り上げていく過程も、時間の流れを体感する機会となります。
4. 行事や特別な活動の準備
運動会やお遊戯会、遠足などの特別な活動は、準備期間から当日まで一連の流れがあります。
- 行事までのカウントダウン: 行事までの日数をカレンダーで見たり、準備の進捗状況(練習の様子、製作物の完成)を確認したりすることで、目標に向かって時間が流れていることを意識させます。
- 当日のプログラムの確認: 「始めに〇〇の体操をして、次に△△の競技だよ」など、当日のタイムスケジュールを簡単な言葉や絵で伝え、見通しを持たせることで、時間の流れを体感しやすくなります。
年齢別の配慮
- 乳児(0~1歳児): まだ言葉での理解が難しい時期です。特定の保育者との繰り返しのやり取り(いないいないばあ、ミルクを飲む→寝るなど)や、絵本のページをめくる、おもちゃを振ると音が鳴るなど、単純な「原因と結果」としての順番や、繰り返しの中で起こる出来事の連続性を体感することを重視します。心地よい一定の生活リズムが、安心感とともに時間の感覚の土台を育みます。
- 幼児(2~5歳児): 身の回りのことや遊びの中で、具体的な活動の順番を言葉や視覚的なツール(絵カード、写真)で伝えることが効果的です。簡単な二段階、三段階の順序を理解できるようになり、やがて少し複雑な工程を含む製作活動や、集団遊びの中での順番を守る経験を通して、時間の流れやルールを学びます。
保護者へのアドバイス例
家庭でも、日常の中で「順番」を意識する機会を作るよう保護者の方にお伝えすることができます。
- 「〜したら次は何かな?」の声かけ: 「靴を脱いだら、次は手を洗おうね」「絵本を読んだら、次はおやすみだよ」など、家庭でのルーティンの中で次の行動を予告する声かけを勧めます。
- お手伝いの順番: 「洗濯物を畳んでから、テーブルを拭くお手伝いをお願いね」など、簡単な家事の順番を伝えることで、順序立てて考える力を養います。
- 遊びの中で: おもちゃの出し方・片付けの順番、一緒にケーキを作る時の混ぜる→型に入れるなどの工程を共有することを勧めます。
まとめ
活動の「順番」を意識することは、子どもたちが時間の流れを体感し、見通しを持って行動するための重要なステップです。日々の保育の中で、日常生活のルーティン、製作活動、遊びなど、様々な場面で「次は何をする時間かな?」という問いかけや、視覚的なサポートを取り入れることで、子どもたちは自然と時間の感覚を育んでいきます。子どもたちの発達段階や興味に合わせて、楽しみながら「順番」を通して時間の不思議を体感できるような関わりを続けていくことが、未来への見通しを持つ力、そして自己調整力を育むことにつながるでしょう。