「子どもが時間にルーズ?」:保護者からの時間に関する相談への保育士の対応ヒント
はじめに
保育現場では、保護者から子育てに関する様々な相談を受ける機会があります。その中でも、「子どもが時間にルーズで困っている」「なかなか準備が進まない」「時間通りに動いてくれない」といった、子どもの時間感覚や行動に関する悩みは少なくありません。
保護者の方々が抱えるこれらの悩みに寄り添い、適切な情報や具体的なヒントを提供することは、家庭と園が連携して子どもの健やかな成長を支える上で重要です。この記事では、保護者からの時間に関する相談に対し、保育士がどのように対応できるか、どのような視点でアドバイスを提供できるかについて考えます。
保護者の悩みへの共感と背景理解
保護者が「子どもが時間にルーズ」と感じる背景には、朝の支度や登園、習い事への移動、就寝準備など、日常生活の中で時間通りに進めたいと思う場面で、子どものペースと合わないことによる焦りやストレスがあると考えられます。まずは、保護者の具体的な困りごとや感情に丁寧に耳を傾け、共感の姿勢を示すことが大切です。
「〇〇なんですね、大変ですね」「〇〇で困っていらっしゃるのですね」といった言葉で、保護者の気持ちを受け止めることから始めます。その上で、保育の専門家として、子どもの時間感覚が発達段階によってどのように異なるのかを分かりやすく伝えることが、保護者の不安を和らげる一歩となります。
子どもの時間感覚の発達段階を伝える
子どもにとっての「時間」は、大人とは感じ方や理解の仕方が異なります。保護者に対して、以下の点を踏まえて説明をすることで、子どもがなぜ大人のように時間通りに行動できないのかを理解していただく手助けになります。
- 体感時間: 乳幼児期の子どもは、時計の時刻や分数といった抽象的な時間単位ではなく、活動内容や自身の興味・関心によって時間の流れを感じます。楽しい時間はあっという間に感じ、苦手なことや退屈な時間は長く感じる傾向があります。
- 未来や過去の理解: 過去や未来といった時間軸の理解は、幼児期後半から徐々に育まれます。「あと〇分で終わり」と言われても、その「〇分」がどのくらいの長さか、また「〇分後」に何が起こるのかを具体的に想像するのは難しい段階です。
- 見通しの難しさ: 次に何をするのか、そのためには今何を終えなければならないのか、といった一連の流れ(段取り)を自分で把握し、調整する力は、経験を積みながら徐々に獲得していくものです。
こうした発達段階の特徴を踏まえることで、保護者は「子どもがわざとやっているわけではない」「成長の途中なのだ」と理解し、子どもへの見方を変えるきっかけになります。
保護者への具体的なアドバイス例
保護者の悩みに対して、家庭で実践できる具体的なアイデアをいくつか提案します。園での取り組みと合わせて伝えることで、家庭での実践を後押しできます。
1. 「時間」より「流れ」を意識する声かけ
時間そのものを示す言葉よりも、「これが終わったら」「〇〇をしたら次は何々だよ」といった、活動の流れや順序を示す言葉を使うことを提案します。
- 例:「時計の針がここまで来たら終わりね」よりも「このお片付けが終わったら、絵本を読もうね」
- 例:「あと5分よ!」よりも「おもちゃさん、おうち(おもちゃ箱)に帰ろうね。おもちゃさんが帰ったら、おやつの時間だよ」
2. 活動の「見える化」を取り入れる
一日の流れや、これから行う活動の順序を絵カードや写真、チェックリストなどで「見える化」することを提案します。これにより、子どもは見通しを持ちやすくなり、自分で次に何をすべきかを理解しやすくなります。
- 例:朝の支度リスト(起きる→着替える→顔を洗う→朝ごはん→歯磨き→出発)を絵で示す。
- 例:今日の予定(午前中の遊び→昼食→午睡→おやつ→帰りの会)を分かりやすいイラストや写真で掲示する。
3. タイマーや砂時計を遊び感覚で使う
タイマーや砂時計を、時間管理の道具としてだけでなく、ゲーム感覚で使うことを提案します。「砂が全部落ちるまでにここまでできるかな?」「タイマーが鳴るまで競争!」といった声かけで、時間の長さを体感する遊びを取り入れると良いでしょう。
- 例:絵を描く時間を砂時計で計ってみる。
- 例:ブロックを片付ける時間をタイマーで設定し、鳴る前に終えることを目指す。
4. スモールステップで成功体験を積む
一度に全てを完璧にこなそうとせず、まずは一つの活動(例:着替え)にかかる時間や手順を意識することから始め、できたら褒めることを提案します。「自分でズボンを履けたね!」「靴下も履けたね、すごい!」など、具体的な行動を認め、成功体験を積み重ねることが自信につながります。
5. ゆとりを持ったスケジュールを心がける
特に急ぎたい時ほど、子どもはプレッシャーを感じて動きが止まってしまうことがあります。家庭での活動において、可能な範囲で時間にゆとりを持たせることの重要性を伝えます。「少し早めに準備を始める」「移動時間や支度時間に少し余裕を持たせる」といった工夫が、お互いのストレス軽減につながることを伝えます。
6. 園での取り組みを具体的に伝える
園で行っている時間感覚を育むための活動(例:活動の始まりと終わりを知らせる歌や合図、当番活動、一日の流れの確認など)を具体的に伝え、家庭での取り組みと連携できる点があれば共有します。園での様子を伝えることで、保護者は子どもの成長を客観的に捉えやすくなります。
おわりに
子どもの時間感覚は、日々の生活や遊びの中での様々な経験を通して、ゆっくりと育まれていくものです。「時間にルーズ」に見える行動も、多くの場合、発達段階によるものです。保護者の方々がこの点を理解し、焦らずに子どものペースに寄り添いながら、遊びや生活の中で楽しみながら時間感覚を育むヒントを提供することが、保育士にできる大切なサポートです。保護者と共に、子どもの成長を長い目で見守っていきましょう。