遊びの時間設定で育む:集中力と次の活動への見通し
子どもたちは遊びに夢中になると、時間の経過を忘れてしまうことがあります。これは素晴らしい集中力の表れですが、同時に活動の切り替えや、決められた時間の中で見通しを持って行動することの難しさにも繋がります。遊びの中に時間に関する要素を取り入れることは、子どもの時間感覚を育む上で有効なアプローチの一つです。
この記事では、遊びにおける時間設定が子どもの集中力や見通しを育む理由、そして保育現場で実践できる具体的な方法や年齢別の声かけの工夫についてご紹介します。
遊びへの「夢中」と時間感覚
子どもが遊びに没頭しているとき、その子にとっての時間の流れは、周囲の大人の時間とは異なることがあります。いわゆる「フロー状態」に近い、心地よい集中状態では、人は時間の経過を短く感じやすいとされています。この「夢中になる」という経験は、非認知能力の育ちや、その活動自体への満足感を高める上で非常に重要です。
一方で、社会生活においては、決められた時間の中で行動を終え、次の活動へ移行することが求められます。遊びの時間を設定することは、この社会的な時間の感覚や、活動の終わりを見通す力を養うことに繋がります。
なぜ遊びに時間設定を取り入れるのか
遊びに時間設定を取り入れる目的は、単に時間を守らせるためだけではありません。
- 活動の終わりを見通す力を育む: 「この遊びは〇分で終わる」「この曲が終わったら片付け」といった予告があることで、子どもは活動の終わりを予測し、心の準備をすることができます。
- 集中力をコントロールする感覚を養う: 限られた時間の中で最大限に楽しもうとする意識が芽生えることがあります。また、「あと〇分」という声かけは、集中を維持・調整するきっかけにもなります。
- 次の活動へのスムーズな移行を促す: 終わりの時間や合図を事前に知ることで、次の活動への切り替えに対する抵抗感を和らげることができます。
これらの力は、小学校以降の学習活動や集団行動において、主体的に時間を使って行動するために必要な基礎となります。
年齢別の時間設定アプローチと声かけの工夫
子どもの時間感覚は発達段階によって大きく異なります。それぞれの年齢に合わせた無理のないアプローチが必要です。
乳児クラス(0歳~1歳半頃)
この時期の子どもは、時計やタイマーといった抽象的な時間表示を理解することは難しいです。時間感覚を育むというよりは、生活リズムの中で「次」への見通しを持つ経験を重ねることが中心になります。
- 具体的な合図を決める: 遊びの終わりや、次の活動(食事、午睡など)への移行時に、特定の音楽をかける、手遊びをする、特定の言葉を繰り返すなど、いつも同じ合図を使うようにします。
- 保育士の声かけ例:
- 「おもちゃ、おしまいだよー、きれいにするよー」と言いながら片付け始める。
- 特定の音楽をかけながら「お腹がすいたね、ごはんの時間だよ」と優しく声をかける。
- 抱き上げて「絵本の時間だよ」と絵本コーナーへ移動する。
1歳半~2歳児クラス
少しずつ「待つ」という感覚や、「短い時間」の概念が芽生え始めます。具体的な時間の流れを感じ取れるツールの活用が有効です。
- 砂時計の活用: 短い時間(1分や2分)の砂時計を用意し、「砂が全部落ちたらおしまいね」「砂が落ちるまで〇〇しよう」といった形で視覚的に時間の終わりを示します。
- 簡単なタイマーの音: キッチンタイマーなどの短い音のタイマーを使い、「この音が鳴ったらお片付けしようね」と約束します。
- 保育士の声かけ例:
- 「砂時計の砂がぜーんぶ下に落ちたら、お片付けタイムだよ。一緒に見ていようね。」
- 「ピピッと鳴ったら、次は手洗いに行こうね。」
- 「おもちゃさん、もうすぐおしまいするよ。あとちょっとでバイバイね。」
3歳児クラス以上
時計の数字にはまだ慣れていなくても、「長い」「短い」の感覚がより明確になり、簡単な予告やルールを理解できるようになります。遊びの中に時間要素を取り入れやすくなります。
- タイマーや時計の活用: 子どもにも見える場所にタイマーを置いたり、保育室の時計を指差したりして、「長い針が〇に来たらお片付けの時間だよ」「このタイマーがゼロになったらおしまい」と具体的に示します。
- ゲーム感覚で楽しむ: 「お片付け〇分チャレンジ!」「このおもちゃで遊べるのはあと5分だよ」のように、時間を意識することを遊びの一部に取り入れます。
- 保育士の声かけ例:
- 活動開始時に「この遊びは、あと10分で終わります。」と予告する。
- 終わりの5分前、3分前などに「お片付けの時間まで、あと5分になったよ。」「あと3分!やりたいことをやろう。」と声かけする。
- 終わりの時間になったら「タイマーが鳴ったね。おしまいの時間だよ。」と声をかけ、片付けを促す。
- 片付けながら「時間内にきれいになったね!すごいね。」と達成感を共有する。
集団での時間設定と声かけの工夫
集団活動では、全ての子どもが同時に活動を終え、次の準備をする必要があります。個別への対応に加えて、集団全体への声かけや工夫が重要です。
- 終わりの合図を統一する: 特定の音楽、手拍子、保育士のジェスチャーなど、クラス全体で共通認識できる終わりの合図を決め、繰り返し使用します。
- 視覚的な時間の提示: 大きなタイマーを皆が見える場所に置く、残り時間を絵や数字で示すカードを用意するなど、視覚的に残り時間を共有します。
- 予告の声かけを習慣化する: 活動を始める際に時間を伝える、終わりの数分前に全体に声かけする、という流れをルーティン化します。特定の個人に注意するのではなく、「みんなへの声かけ」として行います。
- 終了後のフォロー: 時間内に活動を終えられたことを肯定的に伝えたり、「〇〇くんはあと少しだったね、次はこの合図を気にしてみようか」と個別に必要なフォローを行ったりします。
保護者へのアドバイス例
家庭でも遊びの時間設定を試せるよう、保護者にも簡単に実践できる方法を伝えることができます。
- 「お家でも、お片付けの時間や次の活動への切り替えに困ることがあれば、砂時計やタイマーを使ってみるのはいかがでしょう。」
- 「『あと5分で公園おしまいね』といった予告をしてから遊びを終える練習をすると、見通しを持って行動する力が育ちます。」
- 「終わりの合図として『きらきら星』を歌いながらお片付けを始めるなど、楽しい工夫を取り入れるのもおすすめです。」
まとめ
遊びは、子どもが最も主体的に時間を過ごす大切な活動です。この遊びの中に、時間設定という緩やかな枠組みを取り入れることは、子どもの集中力を活かしつつ、活動の終わりを見通し、次の活動へスムーズに移行する力を育むことに繋がります。年齢に合わせたアプローチで、砂時計やタイマー、そして温かい声かけを組み合わせながら、子どもたちが時間と仲良くなり、主体的に時間を使いこなせるようになるためのサポートを続けていきましょう。