「次は何かな?」で育つ見通し:遊びや生活で順序を通して学ぶ時間感覚
子どもたちが時間の感覚を身につける上で、「今」の次に「何が起こるか」を知ることは、未来への見通しを持つための重要なステップです。この見通しを育むためには、出来事の「順序」を理解することが基礎となります。今回は、「次は何かな?」という日常的な問いかけや、遊び、生活の中での具体的なアプローチを通して、子どもたちの順序の理解と見通し、そして時間感覚を育むヒントをご紹介します。
順序の理解が時間感覚を育む理由
私たちは日々、様々な出来事が一定の順序で起こる中で生活しています。朝起きて、顔を洗って、ご飯を食べる。絵本はページを順にめくって読む。コップに水を注いでから飲む。これらの「〜の次に〜」という順序の積み重ねが、子どもにとっての時間の流れの基本的な構造を理解する出発点となります。
順序を理解することは、単に出来事の並びを知るだけでなく、以下のような時間感覚の基礎を養います。
- 出来事の連続性: 物事がつながって起こっていることを認識します。
- 因果関係の萌芽: ある行動や出来事が次の結果につながることを感じ取ります。
- 未来への予測: 今何をしているから、次に何が起こるだろうか、という見通しを持つ力が育ちます。
この「次は何かな?」という問いかけや、順序を意識した働きかけは、子どもが安心感を持って活動に取り組むことにもつながります。次に何をするか分かっていれば、不安なく次のステップへ進むことができるからです。
年齢別の順序理解と見通しの発達
子どもの順序理解と見通しの力は、発達とともに段階的に深まります。
- 乳児期(0〜1歳頃):
- 目の前の出来事の繰り返し(ミルク→寝る、おむつ替え→遊ぶなど)を通して、簡単な順序や予測を感じ始めます。
- 特定の合図(食事の準備の音、片付けの歌など)を聞いて、次に何が起こるか予期するようになります。
- 1〜2歳頃:
- 簡単な二段階、三段階の順序を理解し始めます(例:「靴下を履いて、靴を履く」)。
- 見慣れた絵本や手遊びの次の展開を予測して楽しむようになります。
- 2〜3歳頃:
- 遊びや生活の中で、簡単な手順を追うことができるようになります(例:手を洗う手順)。
- ごっこ遊びの中で、簡単な役割や出来事の順序を追体験します。
- 絵本の物語の展開に沿って「次は何が出てくるかな?」といった予測を楽しむようになります。
- 3歳以降:
- より複雑な順序や複数の手順を理解し、記憶することができるようになります。
- 活動全体の流れを把握し、見通しを持って行動できるようになります。
- 物語の構成(始まり、中盤、終わり)といった、少し長い時間の流れの中での順序を理解し始めます。
これらの発達段階を踏まえ、それぞれの年齢に合ったアプローチで順序と見通しを育むことが重要です。
遊びや日常生活で順序を学ぶ具体的なヒント
日々の保育の中で、特別な時間を設けなくても、様々な場面で順序の理解と見通しを育むことができます。
1. 遊びの中でのアプローチ
- 絵本の読み聞かせ:
- 「このページをめくったら、次はどんな絵が出てくるかな?」「〇〇ちゃんは次にどうなると思う?」など、物語の展開やページの順序に注目した声かけをします。
- お気に入りの絵本では、「この次、〇〇が出てくるんだよね!」など、子どもが予測したことを言葉にする機会を作ります。
- ごっこ遊び:
- 「お店屋さんごっこだから、まず品物を用意して、次にお客さんを待とうね。」「お医者さんごっこ、まずは問診で、次に注射ね。」など、簡単なストーリーや役割の順序を確認します。
- 子ども同士のやり取りの中で、順番を待つ、役割を交代するといった社会的な順序も学びます。
- ブロックやパズル、製作遊び:
- 「まずは土台を作って、次に屋根を乗せようか。」「このピースをここに置いて、次はどれかな?」など、完成までの手順や順序を言葉にしながら進めます。
- 簡単な折り紙や製作活動では、「まずは半分に折って、次はこの角を合わせて…」など、手本を見せながら順序を追います。
- 手遊びや歌:
- 歌に合わせて体を動かす手遊びは、動きの順序を覚える良い機会です。繰り返し楽しむ中で、自然と次の動きを予測できるようになります。
- 歌のフレーズと動きを結びつけ、「このフレーズの次はどんな動きだっけ?」と問いかけます。
2. 日常生活の中でのアプローチ
- 一日の流れの確認:
- 活動の切り替わり時や、午前の活動が終わった後などに、「午前中は〇〇をして楽しかったね。さて、次は美味しい給食の時間だよ。」など、出来事のつながりや次の予定を具体的に伝えます。
- 視覚的に一日の流れを示す絵カードなどを活用し、「今はここだよ。この次はこの活動だね。」と一緒に確認します。
- 着替えや片付け、手洗いなどの手順:
- 「お洋服を着ようね。まずはズボン、次にシャツ、最後は靴下だよ。」「おもちゃのお片付け、まずはこの箱に入れて、次に絵本を棚に戻そうね。」など、具体的な手順を言葉にして示します。
- 子どもが自分で行う際に、「次はどれかな?」と声かけ、自分で次のステップを思い出すことを促します。
- 食事の準備や後片付け:
- 「給食の準備をしようね。まずはお皿を運んで、次にコップを置こう。」「食べ終わったら、まずお皿を重ねて、次に机を拭こうね。」など、役割と順序を伝えます。
3. 声かけの工夫
- 具体的に「次」を示す言葉を使います。「〜の後で」「〜が終わったら」「それから」「次に」などの言葉を意識して使います。
- 「今何をしているか」と「次に何をすることになっているか」をセットで伝えます。「今は粘土で遊んでいるね。この遊びが終わったら、手を洗って給食だよ。」
- 子ども自身に「この次は何だったかな?」「この後どうするんだっけ?」と問いかけ、考えを促します。
- 子どもの予測が合っていたら、「そうだね!〇〇の次は△△だね。よく分かったね!」と認め、喜びを共有します。
集団での活用アイデア
- 活動の流れを視覚化: 朝の会や特定の活動の前に、その日の流れや活動の手順を絵カードや写真、簡単なイラストで掲示し、子どもたちと一緒に指差し確認をします。「今日はまずこの活動をして、次はこの活動です。」
- 順番を決める: じゃんけんや順番表などを使って、遊びや活動の順番を決めます。「今日は〇〇君が一番最初、次に△△ちゃんね。」
- みんなで手順を追う活動: クッキングや製作活動など、みんなで協力して一つのものを作り上げる活動は、手順を追うことの重要性を集団で学ぶ機会となります。「みんなで力を合わせて、この順番通りに進めようね!」
保護者へのアドバイス例
保護者へ子どもの時間感覚について伝える際に、順序や見通しの重要性を伝えるアドバイスの例です。
- 「お子さんは今、出来事が順番に起こることを少しずつ理解し始めています。ご家庭でも、例えば『朝起きたら、まずパジャマを着替えて、次にお顔を洗おうね』といったように、生活の中での簡単な順序を声に出して確認してあげると、時間の流れを感じる助けになりますよ。」
- 「絵本を読んだり、一緒にお手伝いをしたりする際に、『この次はどうなるかな?』『お皿を洗う時は、まず泡をつけて、次にゆすぐんだよ』など、順序や次の展開に注目したお話を取り入れてみてください。お子さんが未来を見通す力を育むことにつながります。」
- 「見慣れた生活の流れは、お子さんにとって安心感につながります。朝食→着替え→登園準備、といったいつもの流れを大切にしながら、『次は〇〇だよ』と優しく声をかけてあげてくださいね。」
まとめ
「次は何かな?」という問いかけは、子どもたちが目の前の出来事の順序を捉え、次に起こることを予測する、つまり未来への見通しを持つ力を育むための小さな一歩です。この順序や見通しの理解は、やがてより長い時間の流れや、自分自身の行動の計画へとつながっていきます。
遊びや日常生活の中で、出来事の順序を丁寧に言葉にすること、次の展開を予測する機会を作ること、そしてそれを温かく見守り、承認することは、子どもたちの時間感覚だけでなく、見通しを持って行動する力、そして先の見通しがあることによる安心感を育むことに繋がります。日々の保育の中で、子どもたちの「次は何かな?」という小さなつぶやきや、次に何が起こるか予測しようとする姿を大切に見守り、寄り添っていくことで、子どもたちの豊かな時間感覚を育んでいきましょう。