食べる時間も学びの時間に:食事を通して育む子どもの時間感覚
食事の時間を活用した時間感覚の育み方:保育現場でのヒント
保育園での食事の時間は、単に栄養を摂取するだけでなく、子どもたちが様々なことを学ぶ大切な時間です。この時間を通して、子どもたちは食べ物の大切さ、感謝の気持ち、食具の使い方などを学びますが、同時に「時間」についても多くのことを体験し、学んでいます。日々の食事の時間を、子どもたちが楽しく自然に時間感覚を身につけられる機会として活用するためのヒントをご紹介します。
食事の時間で育まれる時間感覚の種類
食事の時間には、時間に関する多様な要素が含まれています。
- 時間の始まりと終わり: 「さあ、ご飯の時間だよ」「ごちそうさまでした」といった声かけを通して、活動の始まりと終わりを意識します。
- 時間の長さ: 「あと〇分で食べ終わりの時間だよ」といった声かけや、集団で食べる速度の違いを経験することで、時間の長さを感覚的に捉え始めます。
- 時間の順序: 「手を洗う→席に着く→食べる→片付ける」という一連の流れを繰り返すことで、活動には順番があることを学び、将来的な段取り力を育みます。
- 自分のペースを意識する: 自分で食べる速さを調整したり、他の子との違いを感じたりすることで、自分のペースと時間の関係性を意識し始めます。
- 集団での時間共有: みんなで一緒に食べ始め、一緒に片付けに取りかかるなど、集団として時間を共有する経験を通して、社会的な時間感覚の基礎を築きます。
これらの時間に関する体験は、子どもたちの日常生活と密接に関わっており、自然な形で時間感覚を育む重要な機会となります。
具体的な実践アイデア:年齢別・集団での活用
食事の時間を時間感覚の学びにつなげるためには、年齢や発達段階に応じた具体的な関わりが重要です。
乳児クラス(0歳~1歳)
この時期は、まず心地よく食事をすること、そして安定した生活リズムの中で食事の時間が繰り返されることを大切にします。
- ゆったりとした雰囲気: 急かさず、一人ひとりの食べるペースに合わせて寄り添います。
- 声かけ: 「おいしいね」「むしゃむしゃ上手だね」「ごちそうさまの時間だよ」など、食事に関する肯定的な声かけと共に、時間の始まりと終わりをシンプルに伝えます。
- 準備・片付けの関連付け: 食事の前には手を洗う、食事が終わったら口を拭くなど、食事に関連する一連の動作を繰り返すことで、活動の順序を経験します。「おててきれいになったら、ご飯だよ」「ごちそうさましたら、口を拭こうね」と優しく伝えます。
1歳~2歳児クラス
活動の順序や少し先の見通しが少しずつ理解できるようになります。
- 見通しを示す声かけ: 「ご飯食べ終わったら、絵本見ようね」「全部食べたら、お外に行こうね」など、食後の楽しみな活動を伝えることで、食事の時間の「終わり」への見通しを持たせます。
- 「あと少し」の感覚: 「あとこれだけ食べたらごちそうさまだね」と、残りの量と終わりを結びつけて声をかけることで、「あと少し」という時間の感覚を育てます。
- 自分で「終わり」を体感: 自分で食器を所定の場所へ運ぶなど、食事の後の活動への移行を自ら行うことで、一連の流れと終わりを体感します。
- 短い時間の見える化: 食べるのが苦手な子など、特定の子どもに向けて、短い砂時計などを使って「これの砂が全部落ちるまで、少し食べてみようか」と声をかけるなど、時間を視覚的に示す方法を試みることもあります。ただし、これは時間内に食べ終えることを強制するためではなく、あくまで時間の長さを体感させる補助として行います。
3歳児クラス以上
より具体的な時間表現や、集団としての時間意識が育ち始めます。
- 終了時間の予告: 食事の開始時に「今日の給食は、〇時〇分までだよ」「この長い針が〇のところに来たらごちそうさまの時間ね」など、具体的な終了時間を伝えます。
- 経過時間・残り時間の声かけ: 食事の途中で「半分くらい食べたかな?」「あと10分でごちそうさまの時間だよ」「長い針が〇のところに来たね、あと少しで終わりだよ」など、経過や残り時間を定期的に伝えます。
- 自分のペースと集団の時間: 「〇〇ちゃんは、自分で上手にペース考えて食べられてるね」「みんな、あと5分でごちそうさまの時間だから、もう少し頑張って食べようね」など、個々のペースを認めつつ、集団で時間を共有していることを意識させます。
- 食事の係活動: 配膳や片付けの係は、活動の始まりと終わり、そして時間内に終えることへの意識を強く持ちます。他の子が食べ終わる時間を見ながら片付けの準備をするなど、見通しと時間感覚を実践的に学ぶ機会となります。
- 食後の過ごし方: 食べ終わった子は静かに待つ、絵本を見る、パズルをするなど、食後の時間をどのように過ごすかのルールや選択肢を示すことで、与えられた時間の中で自分で行動を選択する経験を積みます。
留意点と保育士の関わり
食事の時間を時間感覚の学びにつなげる上で、いくつか大切な留意点があります。
- 最も大切なのは「楽しく食べること」: 時間内に食べ終えることだけを目的としないように注意が必要です。食べる量や速度は個人差が大きいため、無理強いはせず、食事の時間を楽しい経験にすることを最優先します。
- 個人差への配慮: 食べるのが遅い子や、食事に集中するのが難しい子など、個々の特性を理解し、その子に合った声かけやサポートを行います。「早く!」と急かすのではなく、「ここまで食べられたね、あと少しだよ」「一緒に食べようか」など、肯定的な言葉で寄り添います。
- 他の課題と混同しない: 食具の使い方がまだ難しい、好き嫌いがあるなど、時間感覚以外の課題が原因で食事に時間がかかっている場合もあります。何が課題なのかを見極め、適切なサポートを行います。
- 肯定的なフィードバック: 時間を意識して食べられた時、自分でペースを調整できた時など、「〇〇ちゃん、自分で時計見て食べられたね、すごいね」「みんなと一緒に食べ終われたね、嬉しいな」など、具体的な行動を褒めることで、肯定的な経験として積み重ねます。
まとめ
保育園での食事の時間は、子どもたちが毎日繰り返す最も基本的な活動の一つです。この時間を通して、子どもたちは時間の始まりと終わり、時間の長さ、順序、そして集団の中での時間共有といった、多様な時間感覚の基礎を自然に育んでいきます。
「時間内に食べ終えなければならない」というプレッシャーを与えるのではなく、「この時間は、みんなで一緒に美味しくご飯を食べる時間だよ」という肯定的なメッセージを伝えながら、年齢や発達に応じた声かけや環境設定を行うことが重要です。
日々の食事の時間を、子どもたちが楽しく時間と関わり、見通しを持って行動する力、そして自己調整力を育む大切な学びの場として活用していただければ幸いです。