集団活動で育む「みんなの時間」と「自分の時間」の意識:保育現場での具体的なヒント
子どもたちは、保育園や幼稚園での集団生活を通して、様々なことを学びます。その中でも、「時間」に関する学びは、活動を円滑に進めるためだけでなく、社会性や自己調整力、見通しを持って行動する力を育む上で非常に重要です。集団の中で時間を意識するということは、「みんなと同じ時間を共有する」という感覚と、「自分自身のペースで時間を進める」という感覚、すなわち「みんなの時間」と「自分の時間」という二つの側面を理解し、状況に応じて使い分ける能力を育むことにつながります。
この記事では、保育現場において、子どもたちが「みんなの時間」と「自分の時間」を意識し、身につけていくための具体的なヒントや遊び、声かけの例をご紹介します。
「みんなの時間」を意識するとは
「みんなの時間」とは、クラス全体やグループで共有される時間、例えば朝の会や給食の時間、一斉活動の時間、特定の遊びの時間制限などを指します。子どもたちが集団の一員としてこれらの時間を意識することは、活動の見通しを持ち、周囲と協力して行動するために不可欠です。
保育現場での具体的なアプローチ:「みんなの時間」編
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みんなで始める・終わる活動を明確にする:
- 朝の会や帰りの会など、始まりと終わりが決まっている活動では、「〇時になったら、みんなで丸いお部屋に集まりますよ」「おしまいの時間になりました。座ってお話を聞きましょう」など、みんなで一緒に行動することを強調して声かけます。
- 特定の遊び(例:ブロック遊びの時間、園庭で遊ぶ時間)に時間制限を設ける場合、残り時間を知らせるだけでなく、「みんなで片付けようね」「みんなで次の活動の準備をしようね」と、集団での行動を促します。
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見える化と共有:
- クラス全体のスケジュールを絵や写真を使って壁に貼り出し、「今はみんなでお集まりの時間ですね」「次はみんなで粘土をする時間です」と、みんなで共有する時間割があることを示します。
- 集団活動の残り時間を知らせる際は、砂時計やタイマーをみんなが見える場所に置き、「砂が全部落ちたらおしまいです。みんなで見ていましょう」などと、集団で時間の終わりを意識できるように促します。
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集団での役割と時間:
- 当番活動(給食当番、お掃除当番など)を通して、「みんなが気持ちよく過ごせるように、この時間までに準備をしましょう」「みんなが使う場所だから、時間を使ってきれいにしましょう」など、集団のために時間を意識する経験を積みます。
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遊びの中での時間意識:
- リレーや鬼ごっこなど、時間や順番が決まっている遊びは、みんなでルールを守り、時間を意識する良い機会です。「次の人に早くバトンを渡そう」「鬼から逃げる時間はあと〇秒だよ」などと声をかけ、ゲーム性を楽しみながら時間感覚を養います。
「自分の時間」を意識するとは
「自分の時間」とは、子どもが個々の興味やペースに基づいて主体的に使う時間、例えば自由遊びの時間や、特定の課題に一人でじっくり取り組む時間などを指します。この時間感覚は、自己選択・自己決定の機会を通して育まれ、集中力や探求心、そして自己調整力(自分で活動を調整する力)を高める上で重要です。
保育現場での具体的なアプローチ:「自分の時間」編
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自由遊びの時間の使い方を尊重・サポート:
- 自由遊びの時間に、「この遊びはいつまでやる?」「あとどれくらい遊んだら、次の遊びに行こうか?」などと問いかけ、自分で時間を決める、あるいは自分で時間を意識して遊ぶことを促します。
- 特定の遊びに夢中になっている子には、「すごく集中しているね。この遊びをあと〇分やったら、他も見てみようか?」などと声をかけ、区切りを意識させつつ、自分の時間を選んで使っていることを認めます。
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個人のペースに合わせた時間:
- 製作活動などで、一人ひとりの進捗が異なる場合、「〇時になったらお片付けの時間だよ。それまで、自分のペースでここまでやってみよう」などと伝え、集団の終了時間は意識しつつも、自分の時間でどこまで進めるかを考える機会を与えます。
- 片付けが苦手な子には、「このブロックを自分の時間で全部ここに戻してみよう」「おもちゃを自分の時間でこの箱に入れられたらすごいね」などと、自分で区切りをつけ、自分の時間で達成することを目標とします。
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個人的な見通しを持つ:
- 個別の課題(例:絵本の読み聞かせ、パズル)に取り組む際に、「この絵本を読み終わるまで自分の時間でやってみよう」「このパズルを完成させるまで自分の時間で頑張ってみよう」などと声をかけ、自分の目標達成に必要な時間を意識することを促します。
- 自分の時間でやりたいことをリストアップする活動(絵や言葉で)も有効です。「自由遊びで何したい?」「今日、これとこれを自分の時間でやってみようか」などと、自分で時間の使い方を計画する経験を積みます。
「みんなの時間」と「自分の時間」のバランス
保育現場では、「みんなの時間」と「自分の時間」は絶えず行き来します。この二つの時間感覚をバランス良く育むことが、集団の中での調和と個々の主体性の両立につながります。
バランスを取るためのヒント
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明確な切り替えの合図:
- 「自分の時間」(自由遊びなど)から「みんなの時間」(集まりなど)への移行時には、特定の音楽や声かけ、手拍子など、集団に伝わる明確な合図を使います。「この音楽が聞こえたら、自分の時間を終わりにしてみんなのところに集まろうね」などと事前に伝えておきます。
- 合図の後には、「さあ、みんなの時間の始まりですよ」「みんなで座って、お話を聞きましょう」と、「みんなの時間」への切り替えを言葉でも伝えます。
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個々のペースへの配慮と全体への声かけ:
- 集団での活動中にも、特定の作業に時間がかかっている子や、逆に早く終わってしまった子など、個々のペースが生まれます。
- 時間がかかっている子には、「自分の時間でもう少し頑張ってみようか。終わったらみんなのところにきてね」「お手伝いしようか?」と寄り添いつつ、全体には「〇〇ちゃんも自分の時間で頑張っているね。みんなで待っていようか」と、個を尊重する雰囲気を作ります。
- 早く終わった子には、「すごいね!自分の時間を上手に使えたね。今度はみんなでこれを見てみようか」などと声をかけ、個人の達成を認めつつ、集団の活動へ意識を向けます。
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「まだ遊びたい」などの葛藤への対応:
- 「自分の時間」から「みんなの時間」への切り替え時に、「まだ遊びたい」「これが終わらない」といった声が出ることは自然なことです。
- このような場合、「自分の時間で夢中になれたね。とっても楽しそうだね」と子どもの気持ちに共感しつつ、「でも、これからみんなの時間でお楽しみがあるから、それはまた自分の時間にやろうね」などと、状況(みんなの時間)と見通し(また自分の時間があること)を丁寧に伝えます。無理強いせず、寄り添いながら、少しずつ切り替えられるようにサポートします。
保護者へのアドバイス例
家庭でも「みんなの時間」(家族で食卓を囲む時間、お風呂の時間など)と「自分の時間」(一人で遊ぶ時間、宿題の時間など)を意識した生活を送ることは、子どもが両方の時間感覚を育む上で有効です。
- 「園では、みんなで集まってお歌を歌ったり、自分で好きな遊びを選んだりする時間がありますよ。お家でも、家族でご飯を食べる時間や、一人で絵本を読む時間など、時間の過ごし方についてお子さんとお話してみてくださいね。」
- 「お子さんが何かに夢中になっている時は、『自分で時間を決めて、ここまでやってみようか』などと声をかけ、自分の時間でやり遂げる経験を応援していただけると嬉しいです。」
- 「家族で共有する時間(みんなの時間)と、一人で集中して過ごす時間(自分の時間)のバランスは、お子さんの成長にとって大切であることをお伝えください。」
まとめ
集団生活を送る子どもたちにとって、「みんなの時間」と「自分の時間」という二つの異なる時間感覚を理解し、状況に応じて適切に使い分ける力は、これからの社会で生きていく上で重要な基礎となります。日々の保育活動の中で、これらの時間感覚を意識した声かけや環境設定を行うことは、子どもたちの社会性、主体性、自己調整力を育むことにつながります。
遊びや日常生活を通して、子どもたちが「みんなと一緒の時間も楽しいな」「自分の時間も大切にしたいな」と感じられるような関わりを、一つひとつ丁寧に積み重ねていきましょう。