遊びで集中力アップ！時間感覚と見通しを育む保育アプローチ
はじめに
子どもたちの保育を見守る中で、「遊びに集中できない」「すぐに飽きてしまう」「活動の切り替えが難しい」といった課題を感じる場面があるかもしれません。集中力は、学びの基礎となり、小学校以降の生活においても非常に重要な力です。この集中力と、子どもたちの時間感覚は密接に関連しています。
時間がどのように流れ、いつ何が終わるのかという見通しを持つことは、子どもが安心して一つの活動に取り組むために不可欠です。逆に、時間の終わりが曖牲だと、子どもは不安を感じたり、目的意識を持てずに集中が途切れやすくなったりします。
本記事では、遊びや日常生活を通して、子どもたちが楽しく時間感覚と見通しを身につけ、結果として集中力を高めるための具体的なアプローチをご紹介します。
時間感覚と集中力の関係性
子どもが時間感覚を身につける過程は、単に時計を読むことだけを指すのではありません。それは、以下のようないくつかの要素を含みます。
- 時間の流れを感じる: 「長い時間」「短い時間」「あっという間」といった時間の相対的な長さを体感として理解すること。
- 見通しを持つ: 「次に何が起こるか」「いつ終わるか」を予測し、心の準備をすること。
- 時間の終わりを意識する: 活動の終了時刻やタイミングを把握すること。
これらの時間感覚が育つと、子どもは「この遊びはあとどれくらいできるかな」「この時間内にここまでやってみよう」といった見通しを持って活動に取り組むことができるようになります。終わりが分かっていることで安心して集中でき、また、限られた時間の中で最大限に楽しもうとする意欲も生まれます。
保育現場での具体的なアプローチ
子どもたちの年齢や発達段階に応じたアプローチが重要です。
乳児期（0歳〜2歳）
この時期の子どもたちは、まだ時間という概念を理解していません。しかし、生活リズムを通して時間の流れを体感し、「次は何が起こるか」という見通しの基礎を培います。
- 生活リズムの安定: 授乳、食事、遊び、睡眠といった日課をできるだけ一定にすることで、子どもは「次は〇〇の時間だ」という安心感を持つことができます。
- 短い時間の繰り返し遊び: 短時間で集中できる遊びを繰り返し行うことで、「始まり」と「終わり」の感覚を体感します。
- 声かけと動作の結びつけ: 「いないいないばあ、おしまい」「おもちゃ、これで終わりね、ねんねしようね」など、終わりを告げる言葉と、遊びや活動の終了動作を繰り返し結びつけます。終わりの合図を事前に与え、「心の準備」の基礎を育みます。
- 心地よい終わり方の経験: 遊びの途中でも、子どもの様子を見ながら満足した様子の時に「楽しかったね、おしまい」と終える経験を積ませることで、遊びの終わりに対するポジティブな感覚を育みます。
幼児期（3歳〜5歳）
この時期になると、具体的な道具や言葉を使った時間や見通しのアプローチが有効になります。
- 「見える時間」の活用:
- 砂時計: 「この砂が全部落ちるまで、好きなおもちゃで遊ぼうね」など、砂が落ちる様子で時間の流れを視覚的に捉えさせます。
- タイマー: アラーム音が鳴ることで活動の終了を知らせます。「このタイマーが鳴ったら、みんなで片付けよう！」など、ゲーム感覚で取り入れることもできます。デジタル表示より、残り時間が減っていくのが視覚的に分かりやすいアナログタイマーや、色が変わるタイプのタイマーも有効です。
- 時計の針: 年長児には、少しずつ時計の針が動くことと時間の流れを結びつけ始めます。「長い針がここに来たら、お集まりの時間だよ」など、具体的な場所を指し示して伝えます。
- 活動の流れを伝える:
- 言葉での予告: 「まず手洗いをしたら、おやつの時間だよ」「この遊びが終わったら、絵本を読むね」など、次にすることを具体的に伝えます。
- 絵カードや写真: 一日の流れや活動のステップを絵カードや写真で見える化し、子どもたちが自分で確認できるようにします。これにより、活動の見通しが立ちやすくなり、安心して目の前の活動に集中できます。
- 時間を使った遊び:
- 「タイマーが鳴るまでにおもちゃを片付けよう！」
- 「この曲が終わるまで、ジャンプしてみよう！」
- 「〇分で〇〇色のおはじきをいくつ集められるかな？」 時間を意識するルールを取り入れた遊びは、ゲーム感覚で楽しく時間と向き合う機会になります。
- 声かけの工夫:
- 集中が途切れそうな子どもには、「あと〇分でこの遊びはおしまいだけど、ここまで作ってみない？」「ここまで積み木ができたら、きっと素敵だね！」など、終わりの見通しを示しつつ、具体的な目標や励ましを伝えます。
- 遊びの終盤に「あと〇分で片付けの時間だよ」「タイマーが鳴るまであと少しだよ」など、終わりが近づいていることを予告します。
- 活動後の振り返り:
- 「今日はこの製作に長い時間集中して取り組めたね！」
- 「片付けタイマーが鳴るまでに、みんなでピカピカにできたね、すごい！」 のように、時間と集中を結びつけて肯定的なフィードバックを行うことで、子どもたちは時間感覚を意識する良さを実感できます。
集団での応用
クラス全体で時間感覚を共有することで、活動の切り替えがスムーズになり、集団での集中力も高まります。
- 活動の区切りを示す合図: 楽しい歌、特定のBGM、チャイム、手拍子など、活動の始まりや終わりを知らせる合図を決め、繰り返し使います。子どもたちは音を聞くと「次の時間だ」「片付けの時間だ」と意識を切り替える準備を始めます。
- クラスの時計やタイマーを共有: クラスの誰もが見える場所に時計やタイマーを設置し、「長い針が上に来たらお外遊びの時間だよ」「タイマーが鳴ったらお片付けね」など、集団で時間を意識する声かけをします。
- 当番活動: 食事の準備や片付け、動物への餌やりなど、時間を意識する必要のある当番活動は、具体的な時間感覚を養う良い機会です。
保護者へのアドバイス例
保護者にも時間感覚と集中力の関係性を伝え、家庭での協力をお願いすることも大切です。
- 「ご家庭でも、遊びや食事の前に『これが終わったら次は何をするね』と伝えていただくと、見通しを持つ練習になります」
- 「〇時になったらご飯だよ、と具体的な時間を声かけたり、『この砂時計が終わるまで絵本を読もうね』と見える時間を使ったりするのもおすすめです」
- 「遊びの終わりに『楽しかったね、おしまい』と声かけ、次の行動を促す練習を繰り返すことも大切です」
まとめ
子どもの集中力は、生まれ持った気質だけでなく、環境や働きかけによって育まれるものです。特に時間感覚や活動の見通しは、子どもが安心して目の前のことに集中するための重要な要素となります。
日々の保育の中で、砂時計やタイマーを活用したり、具体的な言葉で活動の流れを伝えたり、時間を使った遊びを取り入れたりといった小さな工夫を重ねることで、子どもたちは楽しみながら時間感覚を身につけていきます。そして、それは集中力だけでなく、自己調整力や見通しを持って行動する力といった、生きる上で必要な様々な力を育む土台となるでしょう。
子どもたちの「今」の遊びや生活を大切にしながら、未来につながる時間感覚を一緒に育んでいきましょう。