音や体の感覚で時間の流れを感じる:感覚を通して学ぶ時間の捉え方
子どもにとっての時間:感覚を通して理解を深めるアプローチ
子どもにとって、時間は目に見えず、触れることもできない抽象的な概念です。そのため、「あとで」「すぐに」といった言葉や、時計の針が示す時刻を理解するには、具体的な経験を積み重ねる必要があります。特に乳幼児期においては、言葉や数字による理解よりも、五感を通して得られる感覚的な情報が、時間の流れを捉えるための重要な手がかりとなります。
保育現場では、子どもたちが遊びや日常生活の中で、自然と時間の感覚を身につけられるよう、様々な工夫が求められます。本記事では、音や体の感覚といった、子どもたちが身近に感じられる感覚を通して時間の流れを捉える方法と、それを保育に活かす具体的なヒントをご紹介します。
音で時間の区切りや流れを感じる
音は、目に見えない時間の区切りや一定の経過を示す上で、非常に有効な手段です。子どもたちは、特定の音とそれに続く行動を結びつけることで、時間の予測や見通しを持つことを学びます。
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保育現場での活用例:
- 活動の開始・終了の合図: チャイムや特定の短い音楽を使い、「この音が鳴ったらお集まりだよ」「この曲が終わったらお片付けの時間だよ」と繰り返し伝える。
- 時間の経過を示す音: キッチンタイマーの「チクタク」という連続音や、一定時間経過後のアラーム音。砂時計の砂が落ちるサラサラという音。
- 音楽や歌の活用: 「お片付けの歌」「手洗いの歌」など、特定の行動と結びついた歌を歌う。「この歌の間は粘土で遊ぼうね」のように、歌の長さを時間の目安にする。
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遊びへの応用アイデア:
- 音当てクイズ: 様々なタイマーの音を聞き分け、それが何分経った音か当てる遊び(最初は保育士がサポート)。
- 音の長さ競争: 「このカスタネットの音が鳴っている間だけ走る競争」など、音の長さを体で感じる遊び。
- サウンドタイマー: アプリなどを活用し、視覚だけでなく聴覚で残り時間を感じられるタイマーを使う。
これらの音による手がかりは、特に活動の切り替えが苦手な子どもや、まだ言葉での指示が十分に理解できない子どもにとって、次に何が起こるかの見通しを持ち、安心して活動に取り組むための助けとなります。
体の感覚で時間の経過を捉える
お腹が空く、眠くなる、体が疲れる、体が大きくなる(成長)といった身体的な感覚も、子どもたちが時間の経過を内部から感じ取るための重要な手がかりです。日々の生活リズムの中でこれらの体の変化を意識することで、子どもたちは一日の中の時間だけでなく、より長い時間の流れ(成長)をもぼんやりと捉え始めます。
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保育現場での活用例:
- 生活リズムとの関連付け: 「お腹が空いてきたね、もうすぐ美味しいご飯の時間だよ」「たくさん遊んだから体がポカポカだね、そろそろお昼寝の時間だよ」のように、体の状態と次の活動を結びつけて声かけを行う。
- 体の成長を感じる機会: 定期的な身体測定の際に、「〇〇ちゃん、こんなに大きくなったね!」「去年の今頃より背が高くなったね」などと声をかけ、体の変化と時間の経過を結びつける。
- 疲労感と休息: 活動中に「ちょっと疲れたかな?少し休憩しようね」など、体のサインを言葉にして伝え、休息の時間を設ける。
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遊びへの応用アイデア:
- 体を動かす時間設定: 「広いところで思い切り走ってみよう!お腹がすいてくるまで走れるかな?」など、体の変化を意識しながら遊ぶ。
- 成長記録: 身長計の特定の目盛りにシールを貼る、手形や足形を定期的に取るなどして、体の成長を視覚化し、時間の経過を感じる。
体の感覚は、子ども自身が主体的に感じ取るものであるため、より深く時間感覚を内面化することに繋がります。
光や視覚的な変化で時間の流れを感じる
自然光の変化や、特定の視覚的な変化も、時間の経過を示す手がかりとなります。日の出や日の入り、影の長さの変化、季節による植物の変化などは、子どもたちが日常の中で大きな時間の流れを感じる機会となります。
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保育現場での活用例:
- 一日の流れと光の変化: 「おひさまが出てきたね、朝だよ」「おひさまが高くなってきたね、お昼ご飯の時間だよ」「外が暗くなってきたね、お家に帰る時間だよ」のように、太陽の位置や外の明るさと活動を結びつける。
- 視覚的なタイマー: 砂時計や、針が動く時計(まだ時刻は読めなくても針の動きで残り時間を感じる)、視覚的に時間が減っていくデジタルタイマーなどを活用する。
- 自然の変化の観察: 園庭の植物の芽が出て葉が茂り、実がなり枯れていく様子や、太陽の光が当たる場所の変化などを子どもと一緒に観察し、「春になったらここにお花が咲くね」「夏はここが日陰になるね」などと話す。
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遊びへの応用アイデア:
- 影踏み遊び: 太陽の位置によって影の長さや形が変わることを感じながら遊ぶ。
- 砂時計リレー: 砂時計を使って、一定時間内でどれだけおもちゃを運べるか競争する遊び。
- 植物の成長観察日記: 毎日同じ時間に植物を観察し、絵や写真で記録をつけ、変化を捉える。
光や視覚的な変化は、子どもにとって直感的で分かりやすい時間のサインとなり得ます。
年齢別の対応と集団での活用
- 0歳児・1歳児: 主に生活リズムと体の感覚(お腹が空いた、眠い、気持ちが良い)を結びつける関わりが中心となります。心地よい体の状態と次に起こる良いこと(授乳、食事、睡眠、遊び)を結びつけ、予測可能な安心できる時間の流れを経験することが重要です。
- 2歳児・3歳児: 音や視覚的な手がかり(チャイム、簡単な絵カード、砂時計など)と具体的な行動を結びつける声かけが増えます。「〇〇の音が鳴ったらお片付けね」「砂が全部落ちたらおしまいだよ」など、短い時間の目安を感覚的に伝えます。
- 4歳児・5歳児: 上記に加え、活動にかかる時間や待ち時間を具体的な感覚(「お歌を2曲歌う間」「砂時計が2回落ちるまで」)で示すことで、時間の長さの感覚を養います。集団で同じ合図を共有し、みんなで時間を意識する経験が、協調性や見通しを持つ力にも繋がります。
集団活動においては、皆で共有できる音や視覚的な合図が非常に効果的です。「お片付けの曲が始まったら、みんなで力を合わせてお片付けしようね」など、共通の感覚的手がかりを基に、同じ目的を持って行動することで、時間に対する意識を共有することができます。
保護者へのアドバイス例
園での実践と並行して、家庭でも感覚を通して時間を意識する声かけを促すことは、子どもの理解を深める上で有効です。保護者には以下のような点を伝えることができます。
- 家庭でも「ピンポーン(チャイムの音)が鳴ったらお友達が来たね」「お風呂のお湯が温かくなるまで待とうね」のように、音や感覚と次の行動を結びつける声かけを試してみる。
- 絵本を読む時間や、食事の準備ができるまでの時間を、簡単な砂時計やタイマー(音が出るもの)で見える化してみる。
- 子どもが「お腹すいた」「眠い」と言った際に、「お腹が空いたね、もうすぐご飯の時間だね」「眠くなってきたね、そろそろ寝る準備をしようか」など、体の感覚と時間を結びつけて言葉を返す。
まとめ
子どもが時間の感覚を身につける上で、音や体の感覚、光や視覚的な変化といった感覚的な手がかりは、抽象的な概念を具体的な経験と結びつける重要な橋渡しとなります。日々の保育の中で、これらの感覚を意識的に言葉にし、活動と結びつけることで、子どもたちは見えない時間を自分自身の感覚を通して捉え始めます。
焦らず、一人ひとりのペースに合わせて、様々な感覚を通した時間との出会いを提供していくことが、子どもたちの時間感覚を育む上で大切な一歩となるでしょう。保育者の皆さまの工夫が、子どもたちの「じかんのまなびば」をより豊かなものにしてくれるはずです。