時間に関する理解が難しい子への関わり方:保育現場での具体的なヒント
時間に関する理解が難しい子どもへの関わり方:保育現場での具体的なヒント
子どもの時間感覚の発達には個人差があり、多くの子どもが成長とともに周囲との関わりや経験を通して時間の概念を獲得していきます。しかし中には、時間の流れや抽象的な時間表現の理解に難しさを感じたり、特定の活動の終了時刻や待つことが苦手だったりと、時間に関する理解に課題を抱える子どももいます。このような子どもたちに対し、保育現場ではどのように寄り添い、サポートしていけば良いのでしょうか。この記事では、時間に関する理解が難しい子どもへの具体的な関わり方や、保育現場で実践できるヒントを紹介します。
時間に関する理解の難しさとは
時間に関する理解の難しさは、様々な形で現れます。例えば、
- 活動の切り替えがスムーズにできない
- 「あとで」「もうすぐ」「しばらく」といった時間表現の意味が掴みにくい
- 「○分経ったら終わり」といった指示が理解しづらい
- 遊びや活動の終了時刻の見通しが立たず、不安になったり抵抗したりする
- 「待つ」ことが極端に苦手で、順番が守れない
- 一日の流れやルーティンが予測できず、落ち着かない
などが挙げられます。これらの行動の背景には、時間という目に見えない抽象的な概念を捉えることの難しさや、未来や過去を想像することの困難さがあると考えられます。
なぜ時間に関する理解が難しいのか
時間という概念は、子どもにとって非常に抽象的で捉えにくいものです。特に、具体的なものや感覚と結びつけて物事を理解することが得意な子どもにとって、時間の経過や長さは直感的に理解しづらいことがあります。また、発達の特性や個人差により、情報の処理の仕方が異なったり、見通しを立てるのが苦手だったりすることも、時間に関する理解の難しさにつながることがあります。これは、能力の問題ではなく、情報の受け取り方や処理方法の違いとして捉えることが重要です。
保育現場で実践できる具体的なサポート方法
時間に関する理解が難しい子どもに対しては、以下のようないくつかの具体的なアプローチが有効です。
1. 時間の「見える化」を工夫する
抽象的な時間を具体的な形で見せることで、子どもは時間の流れや長さを感覚的に理解しやすくなります。
- 視覚的なタイマーや砂時計: 活動時間の終わりを視覚的に示します。残り時間が減っていく様子を見ることで、「終わりが近づいている」という見通しを持つことができます。
- 絵カードや写真: 一日の流れや活動の順序を絵カードや写真で提示します。「次は〇〇の時間」といった形で視覚的に示すことで、次に何が起こるか予測しやすくなります。
- 活動ごとの終了サイン: 特定の音楽をかける、ライトを点滅させるなど、活動の終了を知らせる特定の合図を決めます。言葉だけでなく、感覚的なサインと時間を結びつける練習になります。
- チェックリスト: 活動の手順や終わりまでのステップを簡単な絵や言葉でリスト化し、終わるごとにチェックを入れることで、進行状況と終わりの見通しを立てやすくします。
2. 声かけを工夫する
言葉だけで時間を伝えるのではなく、より具体的で理解しやすい声かけを心がけます。
- 具体的な回数で伝える: 「あと〇分」といった抽象的な表現よりも、「このパズルがあと2つできたらおしまい」「この歌があと1回歌ったらお片付け」のように、具体的な行動の回数で伝える方が理解しやすい場合があります。
- 終わりを事前に予告する: 活動の少し前に「あと少しでこの遊びは終わりだよ」「時計の長い針が△△まできたらおしまい」などと予告を入れることで、心の準備をする時間を与えます。直前の声かけだけでなく、複数回に分けて予告することも有効です。
- 肯定的な言葉を選ぶ: 活動を終えることに対して否定的な言葉ではなく、「お片付けが終わったら、次はお外だよ」「これが終わったら、楽しい〇〇があるよ」のように、次に起こるポジティブな出来事と結びつけて伝えます。
- 子どもの行動に寄り添う: 難しい表現は避け、子どもの今の行動や興味に合わせて声かけを調整します。「〇〇に夢中だね。これが終わったら、△△しようか」のように、子どもの気持ちを受け止める姿勢も大切です。
3. 環境設定でサポートする
環境を整えることも、時間に関する理解を助ける重要な要素です。
- 場所と活動を関連付ける: 特定の場所で特定の活動を行うようにすると、「この場所に来たらこの活動をする時間」という関連付けが生まれ、時間の見通しにつながります。
- 活動の変わり目を明確にする: 片付けの時間、移動の時間などを設けることで、活動と活動の間の「切り替え」の時間を意識しやすくなります。片付けのBGMを流すなども効果的です。
- ルーティンを確立する: 一日の始まりから終わりまで、おおまかな活動の流れや順番を固定します。予測可能なルーティンは、子どもに安心感を与え、次に何が起こるかという見通しを立てる助けになります。
4. 成功体験を積む
短い時間から「待つ」や「切り替える」といった経験を積み重ね、成功体験を増やすことが自信につながります。最初は数秒待つことから始めたり、短い時間設定で活動を終える経験をしたりと、スモールステップで取り組みます。できたときは具体的に褒め、「〇〇できたね!すごいね!」と達成感を共有します。
集団の中での配慮
集団活動の中で、時間に関する理解が難しい子どもだけを特別扱いするのではなく、集団全体への声かけを工夫しながら、個別のサポートを織り交ぜることが大切です。全体に向けて時間や活動の切り替えを促す声かけや視覚的な合図(タイマーなど)を使いつつ、理解が難しい子どもには個別にもう一度丁寧に伝えたり、寄り添ってサポートしたりします。他の子どもたちには、「一人ひとり得意なことや苦手なことがあるよ」というメッセージを伝え、多様性を認め合う雰囲気を作ることも重要です。
保護者との連携
時間に関する理解の難しさについて、保護者と情報を共有し、連携して取り組むことが非常に効果的です。
- 園での様子を伝える: 園での具体的な困りごとや、それに対して園がどのような声かけや工夫をしているかを伝えます。
- 家庭での様子を聞く: 家庭での時間に関する困りごとや、家庭でうまくいっている関わり方などを共有してもらいます。
- 家庭でできるヒントを提案する: 園での取り組みを参考に、家庭でも使えそうな声かけや、絵カード、タイマーなどの活用を提案します。ただし、押し付けにならないよう、保護者の負担にならない範囲で、あくまでヒントとして伝えます。
- 子どもの良い面を共有する: 時間に関する理解の難しさだけでなく、子どもが頑張っていることや成長している点を具体的に伝えることで、保護者の安心感や肯定感を育みます。
まとめ
時間に関する理解が難しい子どもへのサポートは、一人ひとりの発達段階や特性、困りごとの内容を丁寧に把握することから始まります。すぐに劇的な変化が見られなくても、根気強く、様々なアプローチを試しながら、その子に合った方法を見つけていくことが大切です。「見える化」の工夫、具体的な声かけ、環境設定、スモールステップでの成功体験、そして何よりも子どもに寄り添う温かい姿勢が、子どもたちが安心して時間を学び、見通しを持って過ごせるようになるための大きな助けとなります。保育士と保護者が連携し、共に子どもの成長を支えていくことで、子どもたちは少しずつ時間の感覚を掴み、自信を持って様々な活動に取り組めるようになっていくでしょう。