活動の変化を『見える化』で伝達:スムーズな保育活動と時間感覚の発達支援
活動の変化を『見える化』することの重要性
保育園での一日には、様々な活動があります。朝の会、遊びの時間、片付け、排泄、手洗い、給食、午睡、帰りの会など、子どもたちは絶えず活動を切り替えながら過ごしています。これらの活動の移り変わりを子ども自身が見通しを持ち、スムーズに受け入れることは、安心感を持って一日を過ごす上で非常に重要です。
しかし、特に乳幼児期の子どもにとって、「次の活動へ移る」という時間の変化や順序を言葉だけで理解することは容易ではありません。「もうすぐお片付けの時間だよ」「次は給食だよ」と声かけしても、目の前の遊びに夢中になっていると、気持ちの切り替えが難しく、ぐずってしまったり、活動の移行に時間がかかったりすることがあります。
ここで有効なのが、活動の変化を『見える化』することです。活動の流れや、次に何が起こるかを視覚的に提示することで、子どもは時間の流れや順序を感覚的に捉えやすくなります。これにより、子どもは予測不能な変化に戸惑うことなく、安心して次の活動へ向かう準備ができるようになります。また、見通しを持つ経験は、子ども自身の自己調整力や時間感覚の発達にも繋がります。
本記事では、保育現場で実践できる、活動の変化を『見える化』するための具体的なアイデアや、効果的な声かけについてご紹介します。
活動の変化を『見える化』するための具体的なアイデア
活動の変化を『見える化』する方法は、子どもの発達段階や保育環境に合わせて様々です。
1. 活動カードや絵カードの活用
- 方法: 一日の主な活動(朝の会、自由遊び、片付け、排泄、給食、午睡など)を表す絵や写真を使ったカードを用意します。これらのカードを、活動の流れに沿って壁に貼ったり、ボードに並べたりします。
- ポイント:
- その日の活動が始まる前に、子どもたちと一緒にカードを眺めながら一日の流れを確認します。「今日はまず朝の会をして、それからお外で遊ぼうね」などと声かけします。
- 一つの活動が終わるごとに、終わった活動のカードを裏返したり、別の場所に移動させたりして、「これは終わったよ、次はこれだよ」と視覚的に示します。
- 特に活動の切り替えが難しい場面のカード(例:片付けカード)は、活動が始まる少し前に注目を促すように提示すると効果的です。
- 年齢別:
- 乳児クラス: 写真や実物の素材(おもちゃ、スプーンなど)に近い絵カードが理解しやすいです。保育者がカードを手に取り、声かけとジェスチャーを添えて示します。
- 幼児クラス: より簡略化された絵や文字入りのカードも使用できます。子どもたちが自分でカードを並べたり、活動が終わったカードを動かしたりする役割を取り入れることも可能です。
2. 活動ボードやスケジュール表の設置
- 方法: 保育室の壁などに、一日の活動の流れをカードやイラストで示した大きなボードやスケジュール表を設置します。
- ポイント:
- 子どもたちの目につきやすく、手が届く高さに設置します。
- 現在の活動の場所を示す矢印やクリップなどを使い、「今、私たちはここにいるよ」と分かりやすく示します。
- 活動と活動の間に、移行の時間(例:手洗い、トイレ)を含めると、より具体的な流れを理解しやすくなります。
- 集団活動への応用: 登園から降園まで、クラス全体の活動の流れを示すことで、集団での見通しを持つことを促します。特定の時間帯(例:午前中の活動、午後の活動)に絞ったボードを作成することもできます。
3. 活動に関連する物の提示
- 方法: 次の活動に関連する物を、子どもに見える場所に提示します。
- ポイント:
- 例:給食の前にランチョンマットをテーブルに出す、午睡の前に布団を敷く、散歩の前に帽子を用意するなど。
- 物が準備される様子を見ることで、子どもは「次は〇〇の時間だ」と自然に予測することができます。
- 乳児クラス: 特に物の準備が重要な手がかりとなります。
4. 予告と合図の連携
- 方法: 活動の終わりが近づいていることを事前に予告し、特定の合図(音や歌など)と共に次の活動への移行を促します。これらを『見える化』ツールと連携させます。
- ポイント:
- 予告:「あと〇分で片付けの時間だよ」(砂時計やタイマーと連携)。
- 合図:片付けの歌を流す、特定のチャイムを鳴らすなど。
- 活動ボードで「片付け」のカードを指差しながら、「この歌が始まったら、片付けの時間だよ」と伝え、合図と視覚情報を結びつけます。
効果的な声かけと連携
活動の『見える化』は、保育者の温かく具体的な声かけとセットで行うことで、さらに効果を発揮します。
- 見通しを持たせる声かけ:
- 「この時計の針がここまで来たら、おやつの時間だよ」(時計と連携)
- 「この砂が全部落ちたら、お片付けを始めようね」(砂時計と連携)
- 「次は外遊びに行くよ。準備ができたらこの(外遊びの)カードのところに行こう!」(活動カードと連携)
- 期待を持たせる声かけ:
- 「給食の後は、みんなで絵本を見ようね。楽しみだね!」(絵本タイムのカードを指差しながら)
- 「お散歩から帰ったら、手洗いをして美味しいおやつを食べようね」(手洗いカード、おやつカードを指差しながら)
- 子どもの気持ちに寄り添う声かけ:
- 「この遊び、楽しいね。でも、もうすぐで片付けの時間だよ。これが終わったら、次は何をするのかな?(活動ボードを指差して)そう、給食だね!」
- すぐに切り替えられない子には、「このおもちゃをカゴに入れたら、ご飯を食べに行こうね。先生と一緒にやろうか。」など、具体的な行動を促します。
『見える化』によって育まれる力
活動の変化を『見える化』する取り組みは、単にスムーズな活動移行を促すだけでなく、子どもの様々な力の発達を支援します。
- 見通しを持つ力: 次に何が起こるかを知ることで、不安が軽減され、安心して活動に取り組めます。
- 安心感と自己肯定感: 予測できる環境で過ごすことで、安心感が深まります。「自分でできた」という経験は自己肯定感に繋がります。
- 自己調整力: 活動の終わりや始まりを自分で意識し、行動を調整する力が育ちます。
- 時間感覚: 活動の順序や、特定の活動にかかる時間の長さを感覚的に捉える経験を通して、時間感覚の基礎が培われます。
- 主体性: 次の活動を意識し、自分で準備をしたり、見通しを持って行動したりする主体性が育まれます。
保護者へのアドバイス例
園での活動の『見える化』について保護者と共有し、家庭でも似たような声かけや工夫を取り入れてもらうことで、より一貫した支援が可能になります。
- 「園では、一日の流れを分かりやすい絵カードで示しています。お家でも、朝起きてから登園までの流れや、帰宅してから寝るまでの流れを簡単な絵や写真で示してみるのはいかがでしょうか。」
- 「『これが終わったら次はこれ』というように、次に起こることを具体的に伝えていただくことで、お子さんは安心して過ごすことができます。」
- 「遊びや食事の前に『〇分後には片付けようね』と短い時間でも予告を入れると、見通しを持つ練習になります。」
まとめ
保育活動の変化を『見える化』することは、子どもの安心感を育み、見通しを持つ力を養い、結果としてスムーズな活動移行と時間感覚の発達に大きく貢献します。活動カードやボード、関連する物の提示、予告と合図、そして保育者の丁寧な声かけを組み合わせることで、子どもたちは時間の流れを感覚的に捉え、主体的に一日を過ごすことができるようになります。ぜひ、日々の保育の中で様々な『見える化』の工夫を取り入れてみてください。